NPO法人「富山湾を愛する会」では皆さまから「富山湾についてのあなたの夢」という題で寄稿をお願いしております。どのような事柄でも結構ですので自由に夢を語っていただけば幸いです。
夢は様々な可能性や問題の所在を示唆してくれますので、すぐ実現できなくても海に関する起業への足がかりを与えてくれるかもしれません。ご提案いただいた面白いテーマは、「富山湾を愛する会」のホームページを利用し、さらに議論を喚起したいとも考えております。
「海の波に対する私の夢」
会員 石森繁樹
富山湾を目の前にして思うことは「海をもっと知りたい」ということである。なかでも、海の波浪に強く惹かれる。波浪は風波とうねりに区別されるが風波の動きは捉えどころがなく、じつに不規則である。波には弦の振動でも電波でも、山と谷がある。海の波も事情は同じだが、海面の盛り上がった凸部(山)に注目しても、高まりは忽然と消えて予期せぬ所へ移ってしまう。こうした波は数理的な扱いや観測が難しく、残念ながら今も正確な波浪予測情報は提供されていない。かつて海のきらめき(glitter)から波のスペクトルを求める壮大なプロジェクト(1)があったが、天候に左右されて、おもわしい成果が得られなかった。技術が進歩して人工衛星搭載のレーダが利用できる時代であるから波浪モデルの改善と並行して実海面の観測を充実させたいものである。気象衛星が雲の映像を送ってくれるように、宇宙から波の状態を示す海の天気図が届けられる日を夢見ている。
波浪は風のエネルギーが水のエネルギーに姿を換えたものである。鏡のような海面には波エネルギーがなく乗船者には具合が良い。しかし、幸か不幸か、海には常に波がある。恵みの神は海面に沢山のエネルギーを与えてくれている。
富山湾にもその利用例がある。伏木富山港の航路標識ブイは中央に筒をつけた浮体を海に浮かべたもので、波のエネルギーで光が点滅する。ブイが波とともに上下すると筒中の水面の動きでシリンダー内の空気が圧縮される。この圧力で空気タービンを回して発電し蓄電池にためて使用するが、周期2.8秒、波高0.25mの波でも40Wの出力がある。海水浴場でウィンドサーフィンを楽しむ人は波の前進するエネルギーを活用している。最近、波のエネルギーで走る船が話題になった。これを逆手にとって(波のエネルギーは一般に表面付近に限られることも考える)揺れない乗り物ができたら、海のファンも増えることだろう。さらにスケールメリットを考えて広い静的空間を創造できないかと夢想する。そうなれば広大な海もち国(日本は国土面積の約12倍の排他的経済水域を有する)に似合って海上遊園地があちこちに誕生する。
波の役割は、海面における物質交換や海洋生物の活動、生態系の維持など多方面にわたる。海辺において寄せては返す波を見ていると、無常を託(かこ)つ人の心と共鳴するせいか不思議に心が安らぐ。これも波の大切な効用の一つに数えてよいだろう。
波には災害をひきおこす厄介な面もある。昨年2月に富山湾の高波被害で2人が亡くなり、各地で防波堤や護岸が被災した。伏木港の防波堤(長さ15m、2500tonのケーソンを横一列に100個並べた構造物、全長1500m)が800mにわたり破壊された事実は波エネルギーの凄まじさを物語っている。ここで気になることがある。この波が富山湾で知られる寄り回り波かどうかの議論に基本的決着がついていない。理由は衆人を納得させる寄り回り波の定義がないためである。定義づけには観察が不可欠であるから、飛行船やハンググライダーによる空撮がし易くなって、まれにやってくる波を「よく観てみたい」と筆者は夢みるのである。
昨年の高波災害はその後、復旧工事が進み入善海岸では現状復帰にとどまらず護岸堤を嵩上げする補強工事がなされた。それはそれで良しとしなければならないが、現今のように波の力と正面から対峙するほかに有効な手立てはないものだろうか。
以前、工藤昌男氏は『海からの発想』(2)の中で、遠浅海岸のV字型防波堤による海岸造成と急深な海岸での波消作用と波浪発電を兼用した堤防建設を提案している。NPO法人「富山湾を愛する会」会長の高見貞徳氏は進入波に対して直角壁で受け止める現行の工法を改善し、藻場造成も取り込むなど多角的な柔構造による方法を模索している。
最近のサモアやスマトラで発生した地震津波は他人事ではない。日本海東縁は活発な地殻変動帯である。津波への警戒心を強くもち、富山でも10メートル津波の来襲に備えた対策樹立が必要であると考える。
海には未知な点が多い。海洋への関心が高まって海洋波浪に対しても観測や波エネルギー利用や災害対策について一層活発な取り組みがなされることを期待したい。
(1)三好寿『波・津波』河出書房、1971
(2)工藤昌男『海からの発想』東海大学出版会、1975