第9回「富山で生まれた日本海学」
越後喜紀
9.1 日本海学とは
「環日本海地域と日本海をひとつの循環・共生体系としてとらえ、長い歴史の中で繰り返されてきた循環と共生のシステムに学び、人間と自然とのかかわり、地域間の人間と人間とのかかわりを総合学として研究するもの」と定義されている。日本海学を考える3つの視点は、「循環」と「共生」と「海」である。すなわち、環日本海地域が周期性をもった地球全体の自然環境システムの中で存在しているという循環の視点、環日本海地域における人間と自然との共生、日本海を共有する地域間における人間と人間との共生の視点、環日本海地域において、日本海が果たしてきた役割、意識を問い直し、これからの日本海との関係をみつめるという視点である。研究分野は、①環日本海の自然環境 ②環日本海の交流 ③環日本海の文化 ④環日本海の危機と共生 の4分野である。
9.2 日本海学を生んだ富山
富山県には、日本海学研究の最良の地域としての豊かな自然環境がある。その3つの特色は、①高度差4000mの海、川、里、山を結ぶ水の循環があるということ ②豊かな森をはじめとする自然の恵みを受けた多様な生物が生息する共生のシステムがあるということ ③日本海固有水(深層水)と対馬暖流が織り成す豊饒の海、日本海に面しているということである。
富山県には、いつの時代も日本海に目が向いていた先人たちの交流の歴史があった。例えば、今から約1700年前の弥生時代中期から終末期にみられた四隅突出墳は、出雲と高志(北陸)にしかなく、日本海を通じての交流があったのではないかと考えられている。また、中世には、北条氏のライセンスを得て越前~越中~津軽を航行していた関東御免津軽船があった。当時は、越中の守護所が放生津にあり、奈良興福寺大乗院「雑々引付」によると、1306年「関東御免津軽船二十艘之内随一」の「大船」を経営する「越中国大袋庄東放生津住人沙弥本阿」が越前の三国湊で漂泊船だといって船と荷物(鮭など)を押し取られ、鎌倉幕府に訴えて1320年に和解したという。近世は、北前船の時代である。明治以降は、北前船船主を中心に北洋漁業への進出がみられた。1880年には、サガレン(今のサハリン)島出稼漁業者寄合に新湊の北前船主が参加している。大正期には、樺太~オホーツク海の租借漁区の2割が富山であった。昆布で有名な
9.3 環日本海の自然環境
数千メートルの深層の海流は、温度と塩分の違いによって循環している。北大西洋で沈んだ海水は、約2000年かけて世界の海洋を一巡しており、海洋のベルトコンベアとよばれている。そのミニチュア版が日本海の循環である。日本海では、北上した対馬暖流の一部が冬季の鉛直対流で深部に沈み、逃げ場がないので海底や中間層にたまり、水深200m以下では日本海固有水(深層水)となる。これは、低温で窒素やリンを含み、酸素も豊富であるとともに深層で海流となり、200年をかけて循環している。
日本海側の雪は、対馬海流がもたらす暖かい水蒸気が北西季節風によって運ばれ、山脈にぶち当たって上昇気流となってもたらされる。その雪が豊かな自然と風土(水、植生、生物多様性、人間活動)をもたらす。雪には、6つの環境形成作用(圧力、断熱効果、保湿効果、水分供給、反射・遮光効果、生育期間の短縮)があり、そのひとつである断熱効果が、耐凍性の低い種の高地への侵入・定着を可能にし、植物の多様性をもたらしている。
9.4 環日本海の交流
713年に成立した渤海は、727年以降、日本に34回の渤海使を派遣した。遣唐使の2倍以上の回数である。遣渤海使も13回を数える。渤海使は、冬の北西季節風に乗り、ウラジオストクあたりを出て日本海の沿岸に到着し、夏の南西季節風で能登・加賀・越前から帰国した。能登客院(館)や越前の松原客院が渤海使をもてなす宿舎であった。
京都の祇園祭の山鉾を飾る高級織布の中に、「蝦夷錦」がある。もともと中国の王族や高級役人が身につける絹製の服であった。蘇州、北京、ハルピン、ハバロフスクと山丹貿易によって蝦夷地に運ばれ、さらに松前から北前船で京都まで運ばれた。
9.5 環日本海の文化
日本や環日本海地域は、森林と豊かな自然が残る地域である。ここには、自然を敬い自然そのものが神であるという自然観を持つ民族が多く、アイヌをはじめ少数民族の宝庫でもある。日本には天台密教の究極の理論といわれる「天台本覚論」がある。仏教と神道の総合された考えであり、「山川草木悉皆成仏」という言葉がその特徴を示している。成仏の対象が人間や動物ばかりではなく、植物、鉱物にまで拡大されている。日本人は、食べて自分の体の栄養になるものを「お魚」や「お野菜さん」などとも呼んできた。ここにこれからの環境問題やライフスタイルのヒントがあるのではないか。
9.6 環日本海の危機と共生
(1)海洋汚染
海洋汚染には次の4つがある。① 船の事故によって漏れ出した原油や燃料などによる汚染(1997
年のナホトカ号の重油流出事故など)。② 川や大気に含まれる化学物質による汚染 (農薬など)。③ 川や海に捨てられた生活排水や海洋ごみ(ポリタンク、缶、ビン、ビニールくずなど)や船体の塗料などによる汚染。④ 放射性廃棄物の不法投棄による汚染。国連環境計画(UNEP)事務局長 アヒム・シュタイナー氏は、海は生態系を守る「青い森」と言っているように、大気中の40%のCO2 が海洋環境を通じて循環している。また、生き物が骨格を作るためには、アルカリ性で他の汚染物質が含まれない海水が必要であるが、産業革命始まりにはpH8.16であったものが現在pH8.05に落ちている。肥料や汚水による「酸欠海域」も増えている。こうした中、海洋環境に関して環日本海沿岸諸国が協力体制をとっている。国連環境計画の地域海行動計画として、1994年に日本海と黄海を対象とした北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)が出され、海洋環境保護に関するデーターベースの作成、各国の海洋環境保護に関する法律の調査、海洋環境調査、油汚染などの海洋汚染に対する地域協力、広報活動などを行なっている。日本の地域活動センターは、1997年に設立された環日本海環境協力センターであり、NOWPAPの本部事務局とともに
(2)大気汚染
自動車の排気ガス、対岸の石炭使用などによる硫黄酸化物、窒素酸化物が雨に混ざり、pH5.6以下になった雨・雪を、酸性雨・酸性雪という。日本では平均pH4.5程度である。日本の日本海側の冬には、北東季節風による大陸からの多量の汚染物質の輸送がみられ、降水量が多いために多量の酸性物質が地表へ降下しているデーターがある。
黄砂については、従来、黄河流域及び砂漠(タクラマカン・ゴビ)から風によって砂塵が運ばれてく
る自然現象であると理解されていたが、単なる季節的な気象現象から、森林減少、土地の劣化、砂漠
化といった人為的影響による環境問題としての認識が高まっている。土壌起源ではないと考えられる
アンモニウムイオン、硫酸イオン、硝酸イオンなども検出され、輸送途中で人為起源の大気汚染物質
を取り込んでいる可能性も示唆されている。一方、炭酸カルシウムを含み、酸性雨に含まれる亜硫酸
ガスの酸を中和したり、鉄やリンが海に落ちて栄養を補給する面もあるとの指摘もある。そうした中、
5カ国11自治体64団体の参加による黄砂の視程調査の第1回目が今年3月から5月に行なわれた。
これは、2007年12月に富山で開催された「 北東アジア環境パートナーズフォーラム inとやま」
「とやま宣言」の中で採択された調査である。日本は富山、山形、鳥取の3県31団体が参加し、その
うち
体)であった。
(3)食糧・水の問題
日本のカロリーベースの食料自給率は40%(2007)で、輸入相手国は、アメリカ(22.3%)、中国
(18.4%)(2006)が上位である。その中国も生活水準の向上により消費量が拡大し、農産物輸入量を増やしている。富裕層を中心とした水産物消費量の増大を背景に、マグロの買い付けでは日本が買い負けすることもある。一方、日本の水産業をめぐる現状は、他国200海里からの締め出しによる漁場の縮小、漁業者の減少(1949年の109万人から22万人に減少)、1988年まで世界一であった漁獲量の低下(2004年には第6位)、食用魚介類自給率の低下(2005年には57%)などの数字が示すとおりである。世界中から食料輸入をしている日本の国民一人当たりの食料輸送距離(フード・マイレージ、単位はt・km )は世界一であり、食糧輸送に莫大なエネルギーを消費していることも忘れてはならない。また、仮想水(バーチャルウォーター)の考え方によると、日本は食料とともに大量の水を輸入しているといえる。仮想水とは、食料を輸入している国において、もしその輸入食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものである。ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授アンソニー・アラン氏がはじめて紹介し、日本では東京大学の沖大幹教授らのグループが研究、算出している。小麦1kgで2トン、牛肉1kgで20トン( 飼料作物含む )、全輸入農畜産物に換算すると年間約640億トンの水を輸入していることになる。食料輸入の多いアメリカ合衆国やカナダからの輸入が多く、中国やオーストラリアも輸入先である。一方で、日本人は輸入食料品に対する食の安全や安心には厳しいが、現状をよく把握していない面や、報道にふりまわされ、熱しやすくさめやすい面がある。例えば、「遺伝子組み換えは使用していません」という日本の食品表示は、5%未満の遺伝子組み換え大豆が入っていても使用が許される。つまり、100粒の大豆のうち5粒未満の遺伝子組み換え大豆が入っていても、上記の表示でよいのである。アメリカ大豆の作付面積全体の86%が遺伝子組み換えであり、大豆自給率4%の日本が消費量の75%をアメリカから輸入しているということも現実である。BSE (牛海綿状脳症) や鳥インフルエンザ、冷凍ギョーザ問題などは遠い昔の出来事のようである。食料自給率を向上させることに誰も反対はしない。国を挙げての第1次産業(農林水産業)の見直しが必要だが、現状は厳しい。地産地消による地域の食料自給率の向上は、取り組みやすいのではなかろうか。
(4)資源の問題
携帯電話には19種類のメタル資源が使われている。その中の銅やニッケルの最近の価格推移を見ると急激に高騰している(2007年のデーター)。その背景には、BRICs諸国の高度経済成長による需要増があり、1995~2005年対比で鉄は4倍、銅は7倍、ニッケルは17倍、ボーキサイトは20倍となっている。特に中国のメタル資源消費は世界の25%を占め、銅、鉄、鉛、亜鉛、ニッケル、アルミニウムの消費は世界一である。そのため、さらに需要が伸びる中国は、国際資源メジャーの縄張りに参入しており、有限で偏在する資源をめぐった「メタル・ウォーズ」の状態である。また、資源開発には自然破壊を伴うことも知っておくべきである。採掘準備のための樹木の伐採、表土の掘削、鉱脈にいたるまでの剥岩、「ズリ」の処理、排水処理などにともなう水質汚濁・土壌汚染・土壌浸食、選鉱( 原鉱石から精鉱へ)工程での薬剤使用による水質汚濁、生態系破壊、精錬工程での砒素、硫黄などの有害物質の排出、使用された化学薬品の処理不十分の場合の大気、水質、土壌への汚染、生態系破壊などである。鉱物資源開発は、発展途上国への依存度を増大させており、2030年代にはザンビア、コンゴ民主共和国、南アフリカ、チリ、ペルー、ブラジルの6カ国だけで依存度30%超と予想されている。先住民の生活するさらなる奥地での開発が進み、自然環境破壊はもちろん、強制移住などの先住民の権利侵害、児童労働・劣悪な労働条件、政治・行政・軍の贈収賄による腐敗、資源を資金源とする地域紛争などの問題も付随しておきる。「Out of sight, out of mind」という言葉がある。
9.7 日本海学を通して
日本海および環日本海地域の自然、歴史、文化(衣食住)は、「日本海」の恩恵を受け、1つの「循
環」・「共生」体系の中で存在することが確認できるのではなかろうか。ふるさと富山、日本、環日本海地域、地球の自然環境を守り、住みよい地域にするために、一人ひとり、地域、国がどういう思想(考え)を持ち、行動していけばよいかを考えるきっかけとし、循環型社会・共生する地域の知恵を共有したいものである。
よくある質問
① 黄砂が海に栄養を補給するという証拠は何か
(答)洋上で植物プランクトン生育のために不足している栄養分が鉄で
あり(窒素やリンは充分)、鉄分などミネラルを豊富に含む黄砂粒子はその不足している栄養分の補給になるといわる。最近では、水に溶存する鉄でないと効果がないとの見解もある。そのため、実際外洋上に鉄(硫酸鉄)を撒いてプランクトンの生育や二酸化炭素の海への吸収などについて調べる実験も行われており、鉄を撒いて植物プランクトンの増殖が認められている(衛星からでも検出できている)報告もある。(
② 使い古しの携帯電話からレアメタルの回収は行われているのか
(答)行われている。ほとんどの携帯電話関連企業が参加する
「モバイル・リサイクル・ネットワーク」を通じて回収されている。ちなみに、日本の廃棄物として銅(携帯電話以外も含む)は毎年約10万tで、リサイクル率は約40%である。
③ 北前船貿易が扱った物産品のリストが知りたい
(答)
昆布、鮭、鱒などの海産物や木材。
④ バーチャルウォーターはどのようにして推定するのか
(答)バーチャルウォーターとは、消費国(輸入国)において、もしそれ
を作っていたとしたら必要であった水資源量のことで、東京大学生産技術研究所の沖大幹教授等のグループが試算している。例えば、穀物の場合、典型的な栽培日数に対し、毎日4mm(稲は15mm)分の水が蒸発散や浸透等に必要であり使用されると見なし、灌漑してさらに加える分の水(blue water)のみならず、天水に起因する土壌水分(green water)もここでは消費される水資源として勘案している。求められた使用水量を単位面積当たりの穀物の収量で割ることにより求められる。詳細は、沖研究室のHP(http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/#VW)
⑤ 日本にも金や銀などの金属は産出するのか
(答)日本の金属鉱山は菱刈金山(
金属資源のほぼ全量を海外に依存する状況となっている。菱刈金山は、鉱石1トン中の金量が約40グラムで、現在操業中の金鉱山では世界のトップクラスである。日本の国別金産出量は世界の0.3%で、銀は、統計上産出ゼロである。菱刈金山の銀黒と呼ばれる鉱石中にわずかに含まれる分の産出のみである。
⑥ ほかの環日本海諸国に「日本海学」と類似の学問はあるか
(答)日本海や環日本海地域を対象とする研究は、他の環日本海諸国
でも当然行なわれている。海洋環境や古代の玉文化など、個別のテーマでは共同研究がなされているものもある。循環、共生、日本海の視点を持った「日本海学」というのはない。
⑦ 日本はなぜ食料自給率を高める政策をとらないのか
(答)とっていないわけではない。例えば、食料自給率向上に向けた
国民運動推進事業「FOOD ACTION NIPPON」などがある。食料自給率低下の要因には、戦後日本の食生活の洋風化(自給率ほぼ100%の米の消費が減り、自給率の低い畜産物、油脂の消費が増加)、飽食と呼ばれる食生活、日本の農業の構造的脆弱さ(国土の狭さや零細経営など)、貿易自由化の影響などがあり、それらが複雑にからみあっているので、解決については一筋縄には行かない。
第8回「日本海の特性」
石森繁樹
8.1 日本海のあらまし
日本海はユーラシア大陸中緯度帯の東端に隣接した平均水深1350m、面積130万km2(日本国土の3.4倍)の縁海で、今からおよそ2000万年前に形成されたといわれる(1)。全般に陸棚の発達が貧弱であり、海水をとり除くとお盆のような形をした海底(basin)が現われる。とくに1000m以深の海底は北東から南西に伸び西洋梨に似た形をしているが、北緯40°線を境に北と南で地質学的に様相を異にする。北側には3000mより深い日本海盆が、中央には好漁場である海底の高まり大和堆が、南側には隠岐堆や朝鮮海台などの海底隆起と大和海盆や対馬海盆などの凹地が複雑な海底地形を形成している。ロシア沿海州南部の海岸は急傾斜で深くなり、距岸45kmで3000mの海底に達する。日本海盆は厚さ約8kmの玄武岩質海洋地殻の上に2kmの堆積物をのせた地質構造で、平均水深は3500mと深い。一方、南側に多い海嶺等の高まりは、かつて日本列島がユーラシア大陸と一体であったときの大陸の残存物と考えられ花崗岩質である。日本海東部にはプレート境界が南北に走り、地殻変動が活発(2)で海底地形に特徴がある。太平洋側と比較して海岸線に沿う島が多く、礼文島,利尻島、奥尻島、飛島、粟島、佐渡島、舳倉島、七つ島、隠岐島、壱岐などが岸から似た距離に並んでいる。
日本海は4つの浅い海峡で外海と連絡している。対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡、間宮(タタール)海峡はいずれも狭いうえ、最深部でも140mと浅いため日本海は閉鎖性が強く、その影響は生物の進化や分布に見られる。
日本海の大部分は日本海固有水と呼ばれる一様な性質の水塊によって占められている。日本海固有水の特徴は、水温0.0~1.0℃、塩分34.00~34.10psu、溶存酸素量210~260μmolkg-1のように水質が非常に均一なことである(3)。図8-1は舞鶴海洋気象台が観測した2000m深の水温実測データであるが、縦軸のポテンシャル水温は水圧による温度上昇分を除いた補正水温で、ほぼ現場の水温と考えてよい。いずれの観測値も0.050~0.075℃ の範囲内で微小に変化し、ほとんど0℃に近い。ひとつ興味深いことは1990年以降深海における水温が上昇気味であることである。
図8-1 日本海固有水の水温変化(舞鶴海洋気象台)
日本海に流入する対馬暖流は対馬海峡から入り日本海南部の表層を通って津軽・宗谷両海峡から流出する。その際、大量の熱を日本海へ持ち込み日本の気候形成に深く関わっている。
対馬暖流が拡がる暖水と直下に居座る寒冷な日本海固有水の二重構造は同じ場所に寒・暖両水系の魚種が生息することを可能にしている。ただし、前述のように日本海は敷居が高くて外海からの生物種の移入が限られるうえ、生物の生存環境としては異常に冷たい世界であるから、たとえば日本海に棲む魚の種類は約700種と少なく、日本近海の1/5にすぎない(ちなみに世界の魚の種類は約3万種といわれる)。
8.2 日本海の海流
図8-2は日本近海における海流の模式図である。日本海の対馬暖流とリマン寒流の流路が描かれている。対馬海峡から入る暖水の起源は黒潮と東シナ海の沿岸水との混合水および間欠的に黒潮から切り離される海水と考えられる。日本海の表層水となるこの暖水は春に塩分が高く、夏は低い。対馬暖流系水の厚さ(4)は日本付近で約300mであるが、沖に向かって薄くなり、北緯40度付近で極前線を形成する。流入する流量は平均2 Sv (スベルトラップ、1 Sv=100万m3・s-1)の程度であり夏に多く、冬は少ない。対馬暖流は枝分かれして流れるが、流路については3分枝説が有名である。第1分枝は対馬海峡東水道から入り日本沿岸の大陸棚に沿って浅い海を流れていく。第2分枝は流量が増加する夏に形成され、西水道から流入し200m等深線に沿って隠岐島の北を通り能登半島に到る。第3分枝は西水道を通り朝鮮半島沿いに北上し、緯度38度のあたりで離岸して北東に流れる。第1分枝と第2分枝は海水が海底地形の変化に対して渦度(5)を保存しながら流れるために生じる(地形性β効果(5))。第3分枝の方は海水が緯度の変化に対して渦度を保存するために生じる(β効果(5))。対馬海峡から流入し日本沿岸の大陸棚に沿って流れる第1分枝は暖候期に入ると蛇行し始め、8月に蛇行を強めながら岸を離れるようになる。衛星画像によると日本海には大小さまざまな停滞性あるいは移動性の渦が存在するが、海洋環境調査図に見られる佐渡冷水域や能登沖暖水域などは停滞性の強い渦である。
リマン海流はダッタン海湾の西から間宮海峡を経て沿海州沿いを南西に流れ、ピョートル大帝湾から北朝鮮に達する寒流である。
図8-3は舞鶴海洋気象台が発表する2010年5月30日現在の海流図である。いわば今日的「海の天気図」あるいは海の情報誌で、海流の日々の強さや蛇行の様子を伝えている。
海流を駆動する直接の力は前述のように、風の応力と海水の密度差による力である。日本海の循環を支配する対馬暖流の場合は、こうした力の直接的な働きを考えるよりも、大規模場で既に形成された圧力差に着目するほうが重要である。この圧力差は偏西風と貿易風により形成される北太平洋亜熱帯還流の西岸強化に伴う海面水位の変化を反映したもの(ストンメルによる)で、対馬海峡の水位は津軽海峡より約10cm高い。これは、日本海が完全には閉じていないため海流もその場の風や海水の密度差だけでなく外海の影響も考慮しなければならないことを教えている。
佐渡海峡を挟んだ2点で海面水位を調べると、海面は本州側で高く沖に向かって低くなっている(6)。日本海側の沿岸全体でみられるこの傾向から第1分枝は圧力傾度力とコリオリ力がバランスした沿岸境界流と説明できるが、入口と出口の水位差がもともとの原因で、その結果として沖に向かう圧力傾度力が形成されると考えるほうが自然である。
海水の密度は水温と塩分で決まる。日本海の水温は冬0~14℃、夏16~27℃で分布(7)し、南北間に年平均で約10℃の水温差がある。南北間水温差は冬が夏より3℃ほど大きい。水温傾度は極前線がある北緯40度付近で大きく約1.8℃/緯度である。
塩分の分布は冬期には南部が高く34.0~34.6の範囲で変化するが、夏期は冬より低塩分となり日本海全般で約33.8である。とくに対馬暖流が流入する南部海域は33.0と低くなる。
風の応力(運動量のフラックス)は顕著に季節変化(8)する。ストレスの大きさは冬が夏の2倍以上で、とくに冬季北部海域では反時計回りの循環(正の渦度)を生じるセンスに分布する。これを反映して海流の風成循環成分もかなり季節変動する。
衛星画像は日本海表層にたくさんの渦が存在することを明らかにしてきた(図8-4)。対馬暖流は日本海に入ると枝分かれして蛇行を始め、極前線は常に複雑な波打ちを見せている。これらの現象は基本的に流れと渦の相互作用で説明できるので、日本海に充満する渦動の研究は今後の重要な研究課題である。
図8-2 日本近海の海流図 図8-3 日本海の海流 図8-4 日本海の渦
(理科年表2005) (舞鶴海洋気象台) (NOAA AVHRR近赤外画像)
8.3 日本海の気象
日本海に冬の季節風が吹き出し海上が大荒れになった1990年1月25日の気象衛星ひまわりの雲画像を図8-5に掲げる。前日1月24日には突風と大波により2隻の7000トン級の船が遭難した。画像を見るとロシア沿海州一帯から見事な筋状の雲が出現している。ウラジオストックの沖で発生した筋状の雲は南東方向に伸びたあと東に向きを変えて津軽海峡に達している。酷寒のシベリア大陸から乾燥気塊が北西季節風として日本海上を吹き渡ると多量の水蒸気が補給されて変質する。これがシベリア高気圧の沈降気流が形成する2~3kmの逆転層下に閉じ込められ、下層から加熱されると不安定化して、気層には盛んにベナール型の対流が発生する。筋状雲はこうして発生した高さ1~2kmの背の低い積雲が海上を吹く風の方向に整然と並んだものである。天気図が西高東低の典型的な冬型の気圧配置のとき出現し、山間地に山雪をもたらす。また日本海上層の気圧の谷に強い寒気が入るといわゆる袋状の等圧線型になり、筋状の雲列の南縁に直交して北東から南西に走る雲列を伴う雲の集合体が現われる。これはきまって朝鮮半島のつけ根で発生し、幅を拡げながら帯状に日本列島の山陰・北陸の間に上陸する。この帯状雲はシベリアから強い寒気流出があること、朝鮮半島のつけ根にある大きな山塊で気流が二分され風下の海上低圧部で合流すること、日本海に出て下層から暖められ水蒸気の補給を受ける等の条件が揃うと発生する。収束による強制上昇、上昇気流内の潜熱の放出および上層風と下層風のベクトル差が示す寒気移流で生じた帯状雲には中小規模の低気圧や渦が発生して海上は大時化となる。この帯状雲が上陸する地点の平野部で大雪となる。山雪に対して、これを里雪という。
帯状雲は日本海西部のほか
気象衛星ひまわり可視画像
日本海の気象と言えば雪であろう。狭い日本にありながら、冬の天気は脊梁山脈ひとつではっきりと明暗に分かれてしまう。雪は生活を大きく支配する気象因子であるから、住民にとっては豪雪がいつ、どこで降るかが最大の関心事となる。言い換えれば降雪が集中する時刻と場所を特定する問題である。
陸で大雪が降るときは、海上でも大時化となる。ブイ(北緯37.9度、東経134.5度)の観測によれば1990年1月25日12時(日本標準時)の気象海象は、北西の風19.1ノット、気温-4.1℃、水温12.5℃、波高2.7m、周期8秒で、前日から25ノット以上の強風が吹き続け表面海水は撹拌されて、水深100mの水温が表面と同じ12.5℃であった。気温と水温の温度差から判断して当時の下層大気は不安定であり、突風など激しい気象が起こったと考えられる。先に述べた大型船の遭難は、若狭湾沖の小低気圧による突風と高波が原因であった。
寒波が本格的になる頃、日本海沿岸各地では雷、竜巻、突風など激しい大気現象が多発する。秋田地方ではハタハタ漁が始まる11~12月に雷が鳴ることから、ハタハタを<かみなりうお>という。富山湾では雷鳴とともに雪が降りはじめ、海の幸のブリが獲れ始めることから、冬雷を<雪おこし>とか<ブリおこし>と呼んでいる。一般に雷は稲妻の文字が示すように稲が実る夏の風物詩であるが、北陸では冬を象徴する現象である。
冬の日本海は北西の風をまともに受け、波が高い。日本海沿岸各地の波浪観測資料によると、
日本海のうねりは富山湾の<寄り回り波>が有名である。北東に開いた湾の形と海底地形が関係して特定の海岸で顕著な高波となり、冬の凪いだ日に突然来襲する。浪源は
雪の季節が過ぎ、日本のはるか南方まで勢力を伸ばしていた寒気団が後退し寒帯前線が日本付近に近づくと、低気圧が日本海に入り急速に発達するようになる。この低気圧めがけて南風が吹くと、日本海側はフェーン現象で乾燥した熱風が卓越する。
夏の日本海は、鉛色の冬のイメージとは裏腹に晴天の日が多く、豊富な日射を受けて明るく輝く。全般的に風が弱く穏やかであるため霧が発生する北部海域を除けば航海も容易になる。
まとめ
1 日本海の海底地形は中央部の大和堆が北の日本海盆と南の複雑な海底
を二分する。
2 海底地質に南北の差異が認められる。北部海底地殻には玄武岩質が多く、
南部では花崗岩が多産する。
3 日本海固有水は異常に冷たく、低塩分で、かつ溶存酸素量が多い。
4 対馬暖流は日本海の海況や日本の気候形成に重要な役割をはたす。
5 日本海は閉鎖性がつよく魚類相が貧弱である。
6 日本海表層とくに極前線付近には大小さまざまの渦が存在する。
7 シベリア気団の寒気の吹き出しが強いと日本海は大荒れになり、
日本海側で大雪が降る。
8 日本海のうねりとして「寄り回り波」が有名である。
9 日本海側は気候のコントラストが明瞭で、鉛色の冬のイメージとは
裏腹に夏は明るく、フェーン現象も影響して暑い日が多い。
よくある質問
① 不審船はなぜ日本の領海に侵入してくるのか
(答)工作活動、拉致、麻薬密輸、密航などを行うためと考えられる。
② 密漁船はどこの法律で裁かれるのか
(答)漁業協定などがなければ当該沿岸国の法で裁かれる。
③ 領海侵犯で拿捕された漁船などの事後処理はどうなるのか
(答)基本的には当該沿岸国の法で裁かれる。拘束、取調べ、裁判、
処罰(船舶・貨物の没収、罰金、損害賠償など)を受けることになる。
ときには国家が介入し国際裁判所が仲裁することもある。
④ 2001年に発生した「九州南西海域不審船事案」の船舶を北朝鮮のものと断定
した根拠は何か
(答)自爆沈没した不審船を引き揚げ、第十管区海上保安本部と
合同捜査本部が証拠物の分析と鑑定を行い北朝鮮の工作船と断定した。
⑤ 密漁船、海賊、工作活動船と遭遇したとき自衛隊は武器を使用できるか
(答)警告射撃、緊急避難、正当防衛での使用に限られるが、海賊対処法で
海賊船が民間船舶に著しく接近し停船命令に従わないときは停止のための船体射撃ができるようになった。本法の武器使用規定は「人類共通の敵」である海賊などに向けられる性格のもので日本国憲法が禁じる「武力の行使」にならないことはもちろんである。
⑥ 安全な海上交通路(sea lane)はどのようにして確保するのか
(答)大変な難問である。広範なシーレーンにおいて船舶の生命財産を武力攻撃
や海賊から守る手段は簡単には見つからないからである。マラッカ海峡の航行安全に関する国際協力メカニズムやソマリア沖海賊対策など身近な例があるが、わが国は平和国家路線を堅持して外交交渉を重ね、国際社会と協力して海上交通路の安全確保に努めてきた。
参考文献・用語説明
(1)平 朝彦著「日本列島の誕生」岩波新書、1993
(2)上田誠也著「地球・海と大陸ノダイナミズム」NHK人間大学テキスト、1994
(3)尹 宗煥著「日本海の深層水塊と深層循環」環日本海環境白書2003、2003
(4)対馬暖流の勢力:対馬暖流の層厚はせいぜい300mであるが、その勢力の
指標としては100m深水温10℃以上の海域の面積が用いられる。
(5)宇野木早苗、久保雅久著「海洋の波と流れの科学」東海大学出版会、1996
(6)北日本新聞社編「富山大百科事典」北日本新聞社、1994
(7)国立天文台編「理科年表」丸善、2004
(8)舞鶴海洋気象台編「日本海の気候図」舞鶴海洋気象台、1997
(9)波形勾配:波の険しさを表す用語。波高/波長で定義する。
第7回「海の安全」
石森繁樹
7.1 海の安全の現状
日本の海は安全だろうか。能登半島に志賀原子力発電所がある。付近の高みから海上に目をやると一隻の白い船があった。形や動静から、漁船ではないと感じ調べてみると海上警備の巡視船であった。9.11事件後のテロ対策として海上保安庁は連日この任務に当たっていた。
あちこちで不審船事案が起こった。能登半島の沖で日本漁船の姿をした2隻の不審船が発見された。海上保安庁巡視船は領海侵犯のかどで停船命令を出したが、これを無視して遁走した(1999)。自衛隊誕生以来初の「海上警備行動」(1)が発令された事件であった。2001年には哨戒中の自衛隊機が不審船を発見したが巡視船や航空機の停船命令と警告射撃を振りきり逃走した。不審船は追跡する巡視船に自動小銃やロケット・ランチャーで攻撃をしかけたが、最後は追い詰められ中国領海内で自爆沈没した。引き揚げてみると北朝鮮の工作船(2)であることが判明した。船内には子舟や水中スクーターが格納され、ロケット・ランチャー、地対空ミサイル、機関銃を搭載する戦闘艇そのものだった。
密漁船など違反操業のニュースが後を絶たない。潜水器具を使用しての密漁や漁業協定違反の操業は地元漁師の死活問題だけでなく乱獲による資源の枯渇を招きかねない。
2008年にも
海上ではときに船同士の衝突事故が起こる。2006年、根室沖でサンマ漁船とイスラエルの貨物船が衝突し漁船員7名が死亡した。2007年、宮崎の小型船が大型の貨物フェリーに当て逃げされた。小型船の3人は海に投げ出されたが、さいわい救命ボートに乗り移り3日後に救助された。何故にその場で捜索救助の活動がなされなかったのか海の男の常識では考えにくいことだった。海の恐さを知る者の紳士協定として人命救助は海上における当然の勤めであり、シーマン・シップ(seamanship)といわれる船員の常務だったはずである。
海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突(2008年2月19日)や 明石海峡における貨物船、タンカー、砂利運搬船の3重衝突(2008年3月5日)が起こった。いずれも船舶が輻輳する海域を自動操縦で航行していた。監視体制や当直士官の習熟度が不十分であり、安全に対する意識の希薄さが招いた事故であった。
次は海賊の出現である。マラッカ海峡は日本のエネルギー輸送の生命線であるが、商船に対する海賊行為(船舶の強取、船内財物の強取、人の略取など)が横行し、2003年に150件発生した。2005年には石油掘削プラントを曳航中の外洋型タグボート「韋駄天」がマラッカ海峡で海賊に襲われ3人が誘拐された。2007年ごろからソマリア沖・アデン湾で海賊事案が多発した。2008年には111件、2009年には210件が発生し、50数隻が乗っ取られ、約257名の船員が人質となった(4)。わが国の船舶では2008年、アデン湾で15万トン大型タンカー「高山」が不審な船舶から発砲を受けて被弾し、2009年には自動車運搬船「JASMINE ACE」が銃撃を受けた。ソマリア沖・アデン湾はスエズ運河を経由してアジアとヨーロッパを結ぶ重要な交通路で年間18,000隻の船舶が通航する。
こうした事態に対処するため世界各国は海軍を派遣して安全な海上交通路(シーレーン)の確保につとめている。もともと海軍は商船隊の活動を守るために誕生した歴史的経緯がある。わが国も2009年、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」を制定して自衛隊法による艦船派遣を決めた。2009年12月現在、当該海域の海賊対処行動に48回出動し356隻の船舶を護衛する(4)など海の平和と安全を脅かす現代版海賊問題と真正面から取り組み航行安全に貢献している。
日本周辺海域には竹島、尖閣諸島、北方4島など難しい領土問題があり、日本と周辺諸国間に衝突が目立つ。竹島は日韓双方が領土を主張する係争地であり排他的経済水域(EEZ)をめぐる論争が絶えない。たとえば、2006年海上保安庁が竹島海域海洋調査を行うため測量船を現地に向かわせようとしたら韓国はこれに猛反対し、調査を実施すれば測量船の拿捕も辞さないと強硬態度に出た。結局は日韓の外務次官折衝で日韓衝突は避けられたものの事態は一向に解決していない。尖閣諸島でも日中が領土を主張するなどEEZ境界付近の資源開発や領海をめぐる問題が多発している。2008年には中国海洋調査船2隻が尖閣諸島魚釣島南東約6kmの日本領海を航行し、警告を無視して停留するニュースがあった。北方問題も日ソ外交の進展がなく解決の目途が立っていない。毎年のようにロシアによる不条理な漁船の拿捕が続いている。
北朝鮮のミサイル発射実験があった。中距離ミサイル・ノドンや長距離ミサイル・テポドンが日本海や太平洋に着弾する物騒な海になり、国民とくに空や海で働く者には大迷惑であった。拉致問題は今日も未解決である。海上保安庁作成の北朝鮮工作員の浸透ポイントを見ても海岸警備体制の手を緩めるわけにはいかない。
7.2 海の安全の確保
このように日本の安全にかかわる海事問題はいろいろあるが、こうした事態への対応は一体どうなっているのであろうか。不審船事案の教訓と反省を踏まえ海上保安庁と海上自衛隊間の連携強化が問題となり法改正がなされた(2001年)。改正海上保安庁法では不審船への立ち入り検査で武器使用が認められ、臨検対応がしやすくなった。
改正自衛隊法では武装工作員の事案等に効果的に対応する武器使用が可能になり、海上自衛隊では新型ミサイル艇の速力向上、護衛艦への機関銃の装備、艦艇要員充足などが実施されるようになった。また、哨戒機(P-3C)から基地および基地から中央への画像等大容量情報伝送能力の強化がなされ、不審船については不測の事態に備え当初から自衛隊の艦艇を派遣する、遠距離から正確な射撃を行う武器を整備する、などの措置が講ぜられるようになった。
海上保安庁と海上自衛隊の違いを端的に表現すれば、前者は海の警察業務を担当し、後者は防衛業務を担当する。警察業務としては、海の治安維持、海上交通の安全確保、海難救助などが挙げられるが、不審船、武装工作員、海賊、テロなどへの対応は海上保安庁だけでは困難を伴う。こうした事案には共同で対処することが大切で最近は海上保安庁と海上自衛隊との合同訓練も行われるようになった。
違法操業や密漁といった漁業問題への対応も厄介な問題である。明らかに他国の領海に入っての密漁は厳重な監視と取り締まりを強化すれば解決しそうに見えるが適切な装備を有する海上監視の舟艇が不足する現状ではそれも難しい。関係者の交流に基づく漁業資源への共通理解、相互信頼、モラルの醸成など環境整備に期待したいが実現にはまだ時間がかかりそうである。
排他的経済水域が重なり境界が不明確な水域の漁業問題は特に厄介である。関係国間で漁業協定を結び暫定水域を決めても、領土問題の解決と排他的経済水域の境界画定がなされない限り従来どおりの不法操業は続き、結局は国益を損なうことになるだろう。積極的な外交努力により一日も早く問題が解決されることを望まずにはおられない。
海上は常に大切な人材物資が輸送される場である。輸送が安全に行われるためには、海上輸送に携わる優秀な人材と安全なルートの確保が不可欠である。
日本は資源もエネルギーもほとんどを海上輸送に依存している(輸送量は重量換算でわが国貿易全体の99.7%)。中東からの石油はホルムズ海峡やマラッカ海峡を、食料その他の物資もそれぞれのルートを通って運ばれる。海上輸送に携わる我が国商船隊は1980年の日本籍船1176隻、日本人外航船員38000人から、2005年の95隻、2600人へと激減した。これは海運企業が経済を優先して、船籍を税金の安いパナマやリベリヤに移籍し、低賃金の外国人雇用に切り替えたためである。こうした政策によって生じた負の遺産は、海に生きる人間の専門性を疎外し、海上技術を身につけた人材を多量に切り捨てたことである。
現在の日本商船隊が運航する船舶は約2300隻(殆どが便宜置籍船(5)で日本籍船は90隻のみ)であるが、その大半は外国人(96%)の手で担われ、有事の際(日本が武力攻撃を受けるなど)は物資の安定輸送に支障が出かねない。今こそ、国は一定規模の日の丸を掲げた日本籍船を保有し、優秀で信頼できる日本人船員を確保する意思を明確にして無策といわれた海運政策に早く終止符を打つべきである。
島国日本はまさかの時に海の糧道を絶たれたらお終いである。海上交通の安全ルートの確保は平時においては海上保安庁が、有事の際は自衛隊が担当すると言ってしまえば簡単であるが、大切なことは平素から外交や経済を通して海の路(sea lane)の安全確保に努めることだろう。さいわい2007年4月に待望の海洋基本法が成立し、2008年3月には海洋基本計画が策定された。「海洋の安全の確保」は本計画の重要な柱のひとつに取り上げられている。この法整備によって一元的な海洋戦略の構築が可能になったので、本稿で論じた諸問題が一日も早く解決し安全で平和な海が実現することを祈りたい。
一口メモ:
新たな海運政策案として国は、非常時にも最低限の社会生活を続けるために必要な日本籍船を450隻、日本人外航船員を5500人と試算した。海洋基本計画は海上輸送の安定確保のため日本籍船を5年で2倍に、日本人船員を10年で1.5倍に増強する政策を打ちだしている。このナショナルミニマム論を実現するためにも、「トン数標準税制」(6)を導入するなど強い政治のリ-ダーシップを発揮してもらいたいものだ。
まとめ
1 不審船、密漁船、衝突、当て逃げ、海賊行為など海の安全を脅かす
事案が多い
2 領海をめぐる侵犯問題が後を絶たない
3 排他的経済水域の線引きは厄介で未解決な問題である
4 公海においてもミサイル落下の危険や海賊行為が発生する
5 海の安全を守るのは海上保安庁と自衛隊である
6 海上保安庁は海の警察業務を担当し、自衛隊は防衛業務を担当する
7 海運立国の日本にとりシーレーンの確保は重要である
8 海上輸送の安定確保のため日本籍船と日本人船員を増強する必要がある
9 海洋の安全の確保は海洋基本計画の重要な柱である
よくある質問
① 津軽海峡は日本の領海か
(答)津軽海峡は国際海峡とし、3海里を領海としている。
② 水平線までの距離を求める近似式はどのようにして得られるのか
(答)眼Eの高さをh、地球中心をO(半径をr)、眼から水平線の一点Pまでの距
離をxとする。直角三角形OPEの辺の長さの関係から
r2 + x2 = ( r + h )2
x2 = 2rh+h2
x = (2rh+h2)1/2 ≑ (2rh)1/2
この式に、r= 6370kmと眼の高さhを代入すれば水平線までの大体の
距離xが求まる。hをm単位、xを海里単位で表せばx=2h1/2 。
③ 排他的経済水域を200海里と決めた理由は何か
(答)一説によると1947年にチリーがフンボルト海流の幅から200海里保存水域
を主張したといわれる。
④ 北朝鮮は海洋法条約を採択しているか
(答)調印したが批准はしていない。
⑤ 200海里境界線付近で発生する問題にどのように対処したらよいか
(答)関係当事者国どうしで話し合うことを基本とする。国際裁判所が調停に
入ることもある。
⑥ 200海里の管轄海域の広さはアメリカがトップか
(答)アメリカ、オーストラリア、インドネシア、ニュージーランド、カナダ、
日本の順。
⑦ 沖ノ鳥島は日本の島か
(答)1931年に小笠原支庁に偏入された日本最南端の島である。九州パラオ海嶺
の中央付近に位置し、石灰岩の島(礁卓)であるため継続的に護岸工事が行われ、気象観測や灯台設置など独自の経済的生活が営まれてきた。
⑧ 大陸棚延伸問題とは何か
(答)国連海洋法条約第76条「大陸棚の定義」及び77条「大陸棚に対する沿岸国
の権利」によると、200海里経済水域を超えて広い大陸棚の海底及び海底下の鉱物資源、石油天然ガス資源などの非生物資源、海底および海底下に生息する生物資源の開発に関する権利を主張できるので、沿岸国は大陸棚限界を広く画定するために躍起になっている。条約では、海底部分が「領土の自然の延長」であれば大陸棚と認めることを基本にしているので、たとえば日本という陸塊、あるいは地質体はどこまでか、を国連の「大陸棚限界委員会」に証拠を示して納得させる必要がある。申請中で現在審理が行われている。
⑨ なぜ鳥取や兵庫のところで領海が狭いのか
(答)領海の幅を測る根拠の基線には「通常の基線」と「直線基線」の2種類
がある。前者は海岸の低潮線を基線とし、後者は一連の島が存在したり屈曲した湾入など形状が複雑な海岸線に設定できる基線である。上記の海岸では前者が適用されている。
参考文献など
(1) 海上警備行動: 不審な船や艦船の出現に対処するため、自衛隊法により
艦船を派遣して治安を命じる行動。海上の治安維持にあたる海上保安庁の能力を超えると判断したとき防衛大臣が発令する。
(2)海洋政策研究財団編「海洋白書2004」成山堂書店、2004
(3)海洋政策研究財団編「海洋白書2009」成山堂書店、2009
(4)海洋政策研究財団編「海洋白書2010」成山堂書店、2010
(5)便宜置籍船:船主が外国に船籍を置いた船。税金や法令適用の緩和策と
して用いられる。
(6)トン数標準税制:運航している船舶のトン数から利益を推定して課税する
方式。好不況によらず一定税額で諸外国は既に採用している。
第6回「海洋基本法」
石森繁樹
6.1 海の国際法
古くから国家は海の恵み・便益・安全をめぐって様々な議論をしてきた。たとえば海洋資源の代表格である魚についてはイギリスとノルウェーの間に漁業紛争があり、イギリスとアイスランドの鱈戦争(1)があった。こうした問題を解決するためには法の力が必要となる。国際社会は、あるときは慣習法に従い、あるときは条約を結んで海の権利義務関係を規定してきた。こうした海の決まりは、結んだ条約は遵守するという国家の明確な意思に支えられてはじめて有効性が発揮される。
歴史の教えによれば、中世の都市国家群が地中海において海の領有権を主張したのを皮切りに16-17世紀には北欧やイングランドが排他的漁業水域をめぐり海の線引き論争を起こした。この風潮はグロチウス(Hugo Grotius、1583-1645)の「自由海論」やセルデン(John Selden 1584-1654)の「閉鎖海論」(2)をうみ、18世紀になると多くの国が領海を主張するようになった。領海の幅(3)について、バインケルスフーク(Cornelius van Bynkershoek、1673-1743)は大砲の着弾距離(3海里が当時の標準値)をもって沿岸国の領海とすることが妥当であると説いた。以来この3海里説が広く受け入れられたが、領海として4海里、6海里、12海里などを主張する国も存在した。
第2次大戦後、米トルーマン大統領が公海上の漁業規制と大陸棚宣言(4)を行うと、これに同調して中南米諸国を中心とする国々が広い海域を自国の領海あるいは経済水域と主張するようになった。国際慣習からすれば海の秩序を乱すこのような国際社会の環境変化に対応して、海事問題を解決すべく包括的な「海の憲法」づくりが開始された。
第一次海洋法会議が1958年ジュネーブで開催され、「領海及び接続水域に関する条約」、「公海に関する条約」、「漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約」、「大陸棚に関する条約」(ジュネーブ海洋法4条約といわれる)が採択された。1960年の第二次海洋法会議では領海(6海里)プラス漁業水域(6海里)の審議が行われたが失敗に終わった。ここまではいろんな水域設定が提案されても基本的に公海以外の領海などは狭く押さえるという意思が働いていた。1967年にはマルタの国連大使パルド(Arvid Pardo、1914-1999)が国連において、公海における深海の海底資源は人類の共同財産(the Common Heritage of Mankind)であると提唱した。1972年、ケニアが資源ナショナリズムの台頭を背景に200海里の排他的経済水域構想を提起すると、アフリカ、アジア諸国、ソヴィエトなど多くの国がそれを支持した。こうした提案は従来の伝統的な考え方に見直しを迫るもので、その後の審理に大きな影響を及ぼした。
第三次海洋法会議(1973-1982年)は10年に及ぶ審議の末、1982年に海洋に関する包括的な国連海洋法条約を採択した。こうして沿岸国の主権が領海(12海里)、排他的経済水域(200海里)、大陸棚(最大350海里)に及ぶようになり、世界は200海里時代に突入した。いまや海の40%はいずれかの国の管轄下に属し、自由な海はわずか60%とたいへん狭くなってしまった。
水平線までの距離はどれぐらい? 眼の高さがh (m)のとき水平線までの距離x (海里)はおおよそ次式で求められる。 x =2√h したがって、領海12海里は約33mの高さから見た水平線までの距離に等しい。 |
6.2 海の憲法
海の権利義務関係を律する国連海洋法条約(5)(United Nations Convention on the Law of the Sea:UNCLOS)は1982年に採択され、1994年に発効した。平成19年2月現在、152カ国が本条約を締結している。本条約は全17部320条の本文と9つの附属書から成る長大な法体系で、領海、公海、大陸棚といった従前の分野に加え、国際航行に使用される海峡、排他的経済水域、国際海底機構、紛争の解決のための国際海洋法裁判所設立など新たな規定が設けられた。主な内容を要約すると、①沿岸国の主権関連:領海が12海里、排他的経済水域(EEZ)が200海里と定められた。これにより沿岸国はEEZ内で漁業、鉱物資源、海洋汚染防止について主権をもつことになった。②船舶の航行関連:領海における無害通航権と国際海峡における通過通行権が認められた。③深海鉱物資源関連:公海における海底資源の開発は国際海底機構(ISA)の管轄下に置かれるように決められた。議論の多いところで最近、法のこの部分に自由市場原理と私企業活動を優遇する修正措置が施された。④紛争の調停関連:海洋法条約に関連する紛争を調停する目的で国際海洋法裁判所が設立された。
以下、全17部のタイトルを掲げ要点を述べる。
第1部 領海及び接続水域 territorial sea and contiguous zone:領海は沿岸国の主権がおよぶ、基線から12海里以内の水域。すべての国の船舶は領海において無害通航権を有する。潜水船は領海においては海面上を航行しその旗を掲揚しなければならない。接続水域は沿岸国が通関、財政、出入国管理、衛生上の法令違反を防止・処罰できる、基線から24海里以内の水域。
第2部 国際航行に使われている海峡 straits used for international navigation:公海と公海あるいは公海とEEZを結ぶ国際航行に使用される海峡を国際海峡と言い、すべての船舶及び航空機は国際海峡において通過通行権をもつ。
第3部 群島国 archipelagic states
第4部 排他的経済水域 exclusive economic zone(EEZ):沿岸国の経済的な主権が及ぶ、基線から200海里以内の水域。沿岸国は海底の上部水域および海底の天然資源の探査・開発、保存および管理などの「主権的権利」と人工島の設置、海洋の科学的調査、海洋環境の保護および保全などの「管轄権」を持つ。また天然資源の管理や海洋汚染防止上の「義務」を負う。なお、すべての国はEEZで自由に航行、上空飛行ができ、海底電線や海底パイプラインの敷設もできる。
第5部 大陸棚 continental shelf:沿岸国は基本的に200海里までの大陸棚において天然資源を開発する主権的権利をもつ。ジュネーブ海洋法4条約では大陸棚を200mまたは天然資源の開発可能な水深までとしていたが、開発可能な水深では際限なく領域が拡大するので、領土の自然の延長である大陸縁辺部の外縁(堆積岩の厚さが大陸斜面脚部までの距離の1%以上、あるいは大陸斜面脚部から60海里)までと範囲を限定する定義が与えられた。これによると法的な大陸棚は最大350海里まで設定可能となる。
第6部 公海 high seas:公海とは領海やEEZなどを除いた国家管轄権の及ばない海で、すべての国の航行の自由や漁業の自由が認められる。しかし、生物資源の保存及び管理については各国の協力義務があり、公海における漁業に各種の規制がかかるようになった。船が公海にあるときは旗国のみが管轄権を有する(船はその国の領土そのもので、船長は大きな権限と責任をもつ)が、海賊行為、奴隷取引、海水汚濁、海上衝突など公海上の法秩序が脅かされるときはすべての国の軍艦や政府公用船は海上警察権を行使できる。
第7部 島の制度 regime of islands:
島とは自然に形成された陸地であって高潮時にも水面上にあるものをいい、EEZ水域や大陸棚が設定できる。人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできない岩は、EEZ水域または大陸棚を持ち得ない。
第8部 閉鎖海または反閉鎖海enclosed or semi-enclosed seas
第9部 内陸国の海への出入りの権利及び通過の自由right of access of land-locked states to and from the sea and freedom of transit
第10部 深海底 the Area:パルドー大使の提唱をうけて、深海底及びその資源は人類の共同の財産である(第136条)と規定され、マンガン団塊を主とした海底資源の探査・開発などの管理を行う国際海底機構(International Seabed Authority:ISA)が設立された。しかし開発技術の移転義務、生産制限、補償制度などを要求する発展途上国と自由な開発を主張する先進国の合意が得られず交渉は難航した。結局、1994年に条約の一部を修正する「実施協定」が採択されて発効に到った。
第11部 海洋環境の保護及び保全 protection and preservation of the marine environment:陸上起因の汚染、海洋投棄による汚染、海洋における船舶からの汚染などあらゆる発生源からの海洋汚染防止についての国家の権利・義務を規定している。
第12部 海洋の科学的調査 marine scientific research:すべての国は平和目的のために海洋の科学的調査を実施する権利を持つが、他国の排他的経済水域や大陸棚における科学的調査については沿岸国の同意を必要とするとしている。
第13部 海洋技術発展及び移転 development and transfer of marine technology
第14部 紛争の解決 settlement of disputes:平和的手段によって紛争を解決する義務や、紛争の解決手段としての国際海洋裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所について規定している。
第15部 一般規定general provisions
第16部 最終規定final provisions
6.3 海洋基本法(5)
日本の領海を図7.1に示す。領海や排他的経済水域は直線基線をもとに設定されるが、日本が広い「海もちの国」になったことがわかるであろう。このように世界の海に線引きがなされた結果、海洋の4割はどこかの国の管轄下に入り、どこにも属さない自由な海すなわち公海は6割だけになった。
図6.1 日本の領海等概念図(左)および直線基線(右)
もともと水産王国であった日本は海の線引きに反対の立場をとり続けた。そのため国際舞台でeccentricな島国とかexcept oneなどと揶揄されることがあった。一方で韓国や中国はじめ多くの国は新たな海洋法時代に向け積極的に対応した。こうした世界の趨勢に逆らうことは得策でなく政界、財界、民間から新海洋法時代へ向けた体制整備の必要性が強調され、2007年7月に「海洋基本法」が制定された。2008年には、海の司令塔である海洋政策担当大臣が誕生し、海洋政策本部が設立され、海洋基本計画が作成された。
この法律は、地球の広範な部分を占める海洋が人類をはじめとする生物の生命を維持する上で不可欠な要素であるとともに、海に囲まれた我が国において、海洋法に関する国際連合条約その他の国際約束に基づき、並びに海洋の持続可能な開発及び利用を実現するための国際的な取組の中で、我が国が国際的協調の下に、海洋の平和的かつ積極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現することが重要であることにかんがみ、海洋に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに海洋に関する基本的な計画の策定その他海洋に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、総合海洋政策本部を設置することにより、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上を図るとともに、海洋と人類の共生に貢献することを目的とする。
海洋基本法の基本的施策は
1 海洋資源の開発および利用の推進
2 海洋環境の保全
3 排他的経済水域の開発推進
4 海上輸送の確保
5 海洋の安全の確保
6 海洋調査の推進
7 海洋科学技術に関する研究開発の推進
8 海洋産業の振興および国際競争力の強化
9 沿岸域の総合的管理
10 離島の保全
11 国際的な連携の確保と国際協力の推進
12 海洋に関する国民の理解の増進
要約すれば、海の開発・利用および保全、海の安全確保、海洋産業の育成、海の教育・研究、海の総合的管理、国際協調などだが、ひらたくいえば海洋権益を最大限に活用するために「海を知り、利用し、守る」ということである。海洋を利用しながら海を守る(保全する)には海洋環境や生態系を重視した海の総合的管理が求められる。こうした海洋政策の実効をあげるにはやはり海を知る人を育て国民の海への関心を高めることが肝要である。
まとめ
1 海洋への進出が盛んになるつれ西欧を中心として「自由海論」や
「閉鎖海論」が起こった。
2 18世紀以降、領海3海里説が広く受けいれられた。
3 公海の深海鉱物資源を人類の共同財産(the Common Heritage of
Mankind)とする有名な演説がおこなわれた。
4 国連海洋法条約が採択され、世界は200海里時代に突入した。
5 日本に「海洋基本法」が制定された。
6 わが国は広い「海もちの国」になった。
7 海洋権益を最大限活かすためには「海を知り、守り、利用する」
ことが重要である。
よくある質問
① カルビン回路をもう少し詳しく知りたい
(答)光合成における炭酸同化、糖生成の代謝回路で、二酸化炭素
の固定、二酸化炭素の還元、二酸化炭素受容体(RuBP)の再生からなる。
1)二酸化炭素の固定(fixation of CO2).カルビン回路の最初の段階
で、まず大気の二酸化炭素がRuBP(5単糖分子)に結合する。 生成した6単糖の中間体は不安定ですぐ2個の3PG(3単糖分子)に分解する。この反応は酵素ルビスコに触媒される。
2)二酸化炭素の還元(reduction of CO2).3PGはBPGを経由する次の
ふたつの反応でG3Pになる。
3PG ⇒ BPG (ATP ⇒ ADP+P) ⇒ G3P (NADPH+H+ ⇒ NADP+ )
これはR-CO2 からR-CH2O が生成される過程で、二酸化炭素が還元されたことを示す。この反応で使われるエネルギーATPおよび還元剤NADPHは明反応から得られる。
3)二酸化炭素受容体の再生(regeneration of RuBP).
カルビン回路の模式図は、CO2分子が3度回路に入って一つの炭化水素G3Pが生産されること、および回路が連続的に働くために5個のG3Pから3個のRuBPが再生される必要があることを表している。後者を図式的に示せば
5 G3P ⇒ 3 RuBP (3 ATP ⇒ 3 ADP + P)
(ここでも明反応で生成されたATPが使われる)
生成されたG3Pは糖質、脂質、アミノ酸などあらゆる有機分子を合成する出発物質として大変重要な存在となる。
ここでは次の略号を用いた:
RuBP(ribulose-1,5-bisphosphate、リブロース1,5-ビスリン酸)
3PG(3-phosphoglycerate、3-ホスホグリセリン酸)
BPG(1,3-bisphosphoglycerate、1,3-ビスホスホグリセリン酸)
G3P(glyceraldehydes-3-phosphate、グリセルアルデヒド-3-リン酸)
ATP(adenosine triphosphate、アデノシン3リン酸)
ADP(adenosine diphosphate、アデノシン2リン酸)
NADP(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)
図は前掲の参考文献『キャンベル生物学』p.217から借用
② 溶存酸素濃度が250mmol/m3とはどのような量か
(答)mmolはミリモルのこと。したがって海水1m3には約1.5×1023個の
酸素分子が存在する。ところで水分子は何個存在するか。これを計算して両者の比率を求めてみよ。
③ 深海の生物はどのようにして調べるのか(気圧の関係ですぐ死ぬと
思うが)
(答)うき袋をもつ浮き魚なら水揚げとともに死ぬが、深海の生物は
体内に空気腔をもたないから破裂することはない。水圧、光、食料その他環境が大きく違い飼育実験は容易でないが、身近なところではオオグチボやシロエビの飼育が試みられている。成功すれば直接的な生態観察が可能になる。なお生理的な調査は生体でなくても可能である。現在は6000m以深の海にも潜水可能な潜水艇が建造され日本では「しんかい6500」や「かいこう」が活躍している。潜水艇以外にも深海トロール、採泥器、深海カメラを用いた調査が盛んに行われている。
参考文献
(1)高梨正夫著『海洋法の知識』成山堂書店、1979
(2)曾村保信著『海の政治学』中央公論新書、1988
(3)田畑茂二郎著「国際法講話」有信堂、1997
(4)村田良平著「海洋をめぐる世界と日本」成山堂書店、2001
(5)インターネット上で政府出版物として検索、利用できる
第5回 「海洋と生物」
石森繁樹
主観になるが海と生物について二つのことが印象に残る。ひとつは、ダーウインの「ビーグル号航海記」(1)である。彼はガラパゴス、タヒチ、インド洋キーリング島(今のココス諸島)の海を見ながら美しいサンゴ礁に裾礁, 堡礁、環礁の3種類があることを知り、その成因を説明した。サンゴ虫が浅海でしか生息できないこと、長い時間スケールでは島も沈むことなどを考えての着想であったが、博物学者の卓見に驚嘆させられた。サンゴといえば温暖化に伴う白化現象や海洋酸性化による石灰質骨格の溶解現象など今日も話題が絶えないが、25年ほど前のある講演「富山湾東方海域の深海サンゴ」でサンゴが富山湾の水深100~150mの海に生息すると聞いてびっくりしたこともあった。もうひとつは、深海生態系の発見である。ウッズホール海洋研究所の潜水調査船アルビン号は1977年ガラパゴス諸島付近の海底2500mで新しいタイプの生物群集を見つけた。tube worm, giant clam, mussel, white crabなどの動物群が、古細菌(archaea)がつくりだすエネルギーをちゃっかり利用して生きているというものであった。マントルが上昇する断裂帯近くの湧水(約12℃の温水)にはCu、Zn、Pbの硫化物が多量に含まれる。暗黒の世界に棲む古細菌は光エネルギーの替りに硫化水素の分子内結合エネルギーを利用して有機物を合成していたのである。これは生物学における20世紀最大の発見といわれる事件であった。
生命のふるさとである海には、このように美と神秘と驚きと不思議に満ちたさまざまな生物の営みがあるが、ここでは海洋生物について基礎的な知識の一端に触れる。
5.1 海の生物と生息環境
地球上には多様な生物がいる。現在知られている生物の種類は陸上生物が約180万種、海洋生物が25万種という。今後広い海の調査が進めば、莫大な数の新種が登場するだろう。友人の生物学者はいう。「海は観測のたびに新種が見つかるまさに発見に満ちた冒険の世界だ」と。それにしても海にはいろいろな生き物がいる。鯨や魚(脊椎動物)、ホヤ(原索動物)、ウニやヒトデ(棘皮動物)、エビや蟹(節足動物)、イカや貝(軟体動物)、ゴカイ(環形動物)、サンゴ虫やオワンクラゲ(刺胞動物)、クシクラゲ(有櫛動物)、植物ではアマモ(被子植物)、コンブ(褐藻類)、テングサ(紅藻類)、アオサ(緑藻類)、これらは多くの人が目にする生きものである。ケイソウ(珪藻類)、ラン藻(藍藻類)、細菌類となると小さくて顕微鏡を使わないと見えない。見えないといってもばかにならない。岸辺で掬う海水1ml中には100万個の細菌が存在し、海洋全体の細菌炭素量は0.71Pgになる(2)という。そういえば、原始の海に酸素を供給したのも原核生物のラン藻(3)であった。
生き物にとっての生活環境は海と陸でおおいに違う。陸上生物の活動はほぼ大気と陸の境界に限られるが、海洋生物は明るい海面から暗黒の海底に至る広い空間を棲家とする。海では温度や塩分の変化は緩慢であるが、光は急速に吸収されてしまう。とくに長波長の赤色光はよく吸収され、20mも潜ると青味がかったうす暗い世界になってしまう。光の透過深度は一概に言えないが、植物プランクトンによる正味の基礎生産が行われる有光層(euphotic zone) の下限とすることが多い。植物プランクトンは光を利用して糖質を合成するが、生きていくために必要なエネルギーは自らが生産した有機物を消費する(呼吸)。植物の光合成による生産量と呼吸による消費量がつりあう深さを補償深度という。その深さは海域や季節によって異なるが沿岸域では数mのところもあり、澄んだ熱帯の海で150mに達するところもある。しかし、どんなに透明な海でも1000mの深さになれば太陽光が届かぬ暗黒の世界となる。植物が存在できない無光層(aphotic zone)である。有光層から無光層までの中間層はかすかな光はあっても植物による純生産量はない。水中の圧力は10m降下する毎に1気圧ずつ増える。1000mの海底は100気圧の高圧の世界である。陸の常識ではこのような海は生物の住めない過酷な環境と思えるが、もっと深いところにも動物や細菌(バクテリア)が生存するから驚きである。生物の呼吸に必要な酸素は陸では十分に存在するが、海中では表層の有光層を除き不足気味となる。すなわち大気中の酸素濃度は容積比で20.947%であるのに対し水中の溶存酸素濃度(4)は250.0mmol/m3である。これに対して二酸化炭素は大気中では385ppmであるが、海洋表層では13.6mmol/m3と光合成には十分な量が存在する。海と陸の生存環境は密度、粘性、重力(浮力)、熱容量などの面でも大きく異なる。
5.2 海洋生物の分類
海洋生物はその生活様式によりプランクトン(浮遊生物)、ネクトン(遊泳生物)、ベントス(底生生物)に分類される。プランクトンは水の流れに身を任せて生活する微小な生物が多く、植物プランクトン、動物プランクトン、バクテリアがこの範疇に入る。水中では浮力が働き、陸の動植物ほど体重を支える必要がないため骨格をもたない生物が多い。それでも沈む宿命は避けられないので海水の粘性をうまく利用するため体積に対して表面積を大きくするように進化したり、脂質を身につけ浮力を増すなどの工夫をしたものが誕生した。 植物プランクトン(2.0 ~200 μm )は光合成により糖質などの有機物を合成する生産者であり、動物プランクトン(微視的な種もあるが一般的に植物プランクトンより大きく、網目200μm以上の採集ネットが多用される)は植物プランクトンを捕食して生活する消費者であるが、一方で魚の餌ともなる。バクテリア(細菌、ピコプランクトン0.2 ~2.0μm )は生物の死骸や排出物を分解して、生体に必須な窒素やリンに還元する分解者である。このようにプランクトンは海の生態系をささえる重要な役割を果たす。
ネクトンは遊泳能力を持ち水中を自由に移動する生物で、魚、鯨、ウミガメなどがこの範疇に分類される。この定義に従えば海水浴場で泳ぐ人もネクトンになってしまう。自由に動き回るといっても、ふつう水温、塩分、栄養塩、圧力などで行動範囲が制限されるが、鮭やウナギは淡水と海水の両域を何千kmにもわたって旅をする。
ベントスは海底に棲む生物である。摂食様式により3つの生活スタイルがある。ホヤやアワビは岩などに付着して生活する。カレイやヒラメは海底を這い回ったり、寝そべって生活し、バイや二枚貝は砂泥中に身体を埋めて生きている。ホヤは岩に着生して水孔から海水のプランクトンを捕食する。アワビは岩礁に付着して海藻を食べ、カレイやヒラメは海底のゴカイや貝や魚を餌とする。バイは魚の死骸を好んで食べ、二枚貝は砂泥中の有機物を主食にする。
以上は海洋生物のひとつのグループ分けであるが、それぞれが勝手に独立して生きているわけではなく、互いに食う・食われるの関係(食物連鎖、食物網)を介した大きな生命(いのち)の輪で結び付いてる点が重要である。
5.3 生態系を流れる物質とエネルギー
富山湾には植物プランクトンを生産者とし、この上に動物プランクトン、シラエビ、ホタルイカ、アジ、イカ、イワシ、サバ、ブリなどの消費者が食物連鎖を形成する浮き魚群集がある。また海底にはバイガイ、ナマコ、ベニズワイガニ、ホッコクアカエビ、カレイ、メバル、タイ、アンコウなどの底魚が動植物の糞粒や死骸を出発点とする別の食物網に支えられた生態系をつくっている。生物個体は同種・異種の生物間で食う・食われるの関係を保ちながら、一方では、たとえば富山湾の地形、水温、海流、水中光量、栄養塩類などの物理環境にあった特徴的なまとまりを形成する。このように生物は生物間だけでなく非生物的な環境も含め常に周囲と影響しあって生態系を構成している。
生態系の隠れた動態として物質循環とエネルギーの流れが重要である。植物プランクトンは太陽光のエネルギーを使い二酸化炭素と水からデンプンを合成する(基礎生産)。また、成長のために窒素やリンなどの栄養素が不可欠であるが面白いことに、植物プランクトンがつくる有機物中の主要元素比はおおよそC:N:P=106:16:1であることが知られている。この比はレッドフィルド比(Redfield ratio)と呼ばれる(5)。光合成は太陽の光エネルギーを有機物の化学エネルギーに変換する機構である。色素であるクロロフイルが光を電子に置き換えるなど複雑な化学反応(6)が関与している(明反応とカルビン回路)が、次のように表現できる。
6CO2 + 6H2O ⇔ C6H12O6 + 6O2
ここで右から左への逆反応が呼吸である。反応式をさらに簡略化すると
CO2 + 2H2O ⇔ 「CH2O」+ H2O + O2
この式は光合成において植物が気孔から放出する酸素が二酸化炭素ではなく水に由来することを説明するのに使われる。
さて硫黄細菌の光合成の化学式も上式と同型である。
CO2 + 2H2S → [CH2O] + H2O + 2S
これは硫黄細菌が二酸化炭素を還元する水素を、水(H2O)ではなく硫化水素(H2S)から得ていることを示している。反応式が類似の形になるのは、酸素も硫黄も16族の元素であることを思えば頷ける。また、先述したように深海の生態系では硫黄細菌が太陽エネルギーの替りに化学エネルギーを用いて基礎生産を行っていることに注目したい。
植物プランクトンが生産した有機物は動物プランクトンに捕食され、小魚がこの動物プランクトンを食べ、これをまた大型のネクトンが餌とする。植物プランクトンや魚の死骸や排泄物の一部は、水中を落下する途中で酸化され、バクテリアによって分解されて無機物に還元される。また、動物の体内で不用になった蛋白質はアンモニアの形で尿として排出される。死んで海底に落ちた生物はベントスの餌となりバクテリアに分解されて二酸化炭素、アンモニウム塩、硝酸塩となり湧昇や大循環によって表層に運ばれ再利用される。
このように炭素や窒素などの物質は生物体内で有機物に変身するがやがて分解されてもとの炭素や窒素に還元され生態系の中を循環する。光エネルギーの方は化学エネルギーに変換され、生態系を流れて最終的に熱となって散逸してしまう。このように物質は生態系の中を循環して再利用されるが、エネルギーは生態系の中を一方的に流れて循環することはない。それで生態系を健全に維持するためには外部から絶えずエネルギーを注入する必要がある。
5.4 水産資源をどうする
海の恵みといえば誰でも真っ先に水産資源を思い浮かべるだろう。石器時代の大昔から人は海から食料を得てきたし、現在も世界全体で動物性蛋白質の20%(7)を魚介類から摂取し、日本で40%、バングラデシュでは80%を魚に依存しているという。かつて海の資源は無尽蔵と言われたが、世界の漁獲量が毎年増加する中でかなりの有用魚種に獲り尽くし(枯渇)や資源量の減少が見られるようになった。天然資源は有限なのである。そんな中で、次のような悲しい現実がある。FAOの推定によると1997年の総漁獲量1.1億トンのうち混獲された(bycatch)魚の約2500万トンが無駄に捨てられている(discards)という。目当てにした魚種でない、値打ちが無い、小さい、割り当て以上に獲り過ぎた、そんな理由でカニや鱈などが大量に捨てられている。
わが国の水産物(魚介類+藻類、養殖も含む)生産量は1984年の1280万トンから2000年の640万トンへ半減してしまった。これからの200海里時代を生き抜く水産の戦略は何か、模索すべき海の大きな問題である。
まとめ
1 ダーウインはサンゴ礁に3種類があることを発見した。生物の
営為がつくる地形と説明した。
2 ウッズホール海洋研究所のアルビン号は深海で熱水生物群集を
発見した
3 生物の生活環境は海と陸で大きく違う
4 植物プランクトンによる基礎生産は有光層で行われる
5 海の中でも酸素がなければ生物は死ぬ
6 海洋生物をプランクトン、ネクトン、ベントスに分類する
7 有機物の生産様式に光合成と化学合成がある
8 海中の多様な生物間に連鎖的な食う・食われるの関係がある
9 海洋生態系において物質は循環しエネルギーは一方的に流れる
10 200海里時代の水産の戦略は何か
よくある質問
① エルニーニョの定義は何か。
(答)エルニーニョ監視海域(4°N ~ 4°S、90°W ~ 150°W)
の月平均海面水温の平年偏差を5ヶ月移動平均して、0.5℃以上
高い状態が6ヶ月続いた場合をエルニーニョ現象と定義する
(気象庁)。
② エルニーニョは日本の天候にどんな影響をもたらすか
(答)日本では暖冬・冷夏気味で、梅雨明けが遅れ、台風が少な
い傾向になる。
③ ラニーニャとはどんな現象か、たま世界にどのような影響を
あたえるか
(答)①の定義において同海域の月平均海面水温の平年偏差が
- 0.5℃ 以下になる場合をいう。低温になる地域が多くなる
など天候変動をもたらす。日本では暑夏、寒冬になりやすい。
④ 海水の温度上昇はどの程度の速さか
(答) IPCCの4次報告は世界平均で100年間に0.67℃上昇した
という。気象庁によれば日本海中部は同期間に1.6℃、南部は
1.2℃上昇した。世界平均よリ大きい上昇率である。
⑤ 熱塩循環の時間スケールが1000年というのはどうしてわかるか
(答)14C年代測定法による。14Cは上層大気で窒素が宇宙線中性子
との核反応で生成し、ほぼ一定の濃度で大気中のCO2に含まれる。
生物体や海水にも同じ濃度で含まれ、生物が死んだり海水が沈む
と新たな14Cの供給が途絶えるので14Cの量は時間とともに半減期
(5730年)にしたがって減少する。この14Cの減少量から年代を
知ることができる。深層水の年齢もこの方法で求められる。
⑥ どうして海水の質量と大気の質量の比が約300になるのか
(答)大気圧を1013hPa、地球表面の7割を占める海の平均水深を
3700m、海水の密度を1025kg m-3 とすれば、比=(海水の質量:
4πr2 × 0.7 × 3700 ×1025)/(大気の質量: 4πr2 × 1.013
× 105 × 9.8-1) ≑ 260. ここにrは地球の半径である。
⑦ 竜巻は地上でも発生するが、台風とは完全に違う現象か
(答)竜巻は積乱雲の上昇流で発生する強い渦巻きで、気層上下の
密度差で駆動された力学的対流現象である。台風とは成因もスケ
ールも違う。
⑧ 台風に自転が影響しているのであれば、北半球と南半球で何か
違いはあるのか
(答)低気圧のまわりの風向きが北半球では反時計回りであるが
南半球では時計回りに吹き込む。
参考文献
(1) チャールズ・ダーウィン著、島地威雄訳「ビーグル号航海記」
岩波書店、1972
(2)小暮一啓著、海における小さな巨人、「学術の傾向」日本学術
協力財団、2006
(3)井上勲著「藻類30億年の自然史」東海大学出版会、2006
(4)Libes,S.M. Introduction to Marine Biogeochemistry,
Academic Press,2009
(5)東京大学海洋研究所編「海洋のしくみ」日本実業出版社、1998
(6)Campbell,N.A., Reece,J.B.著、小林興監訳「キャンベル生
物学」丸善、2007、科学雑誌「ニュートン」2008年4月号にも
光合成の丁寧な特集がある
(7)Field,J.G. et al. Ocean 2020.