第4回「海洋と気候」
石森繁樹
4.1 気候の形成を左右する海洋の性質
大気の運動である風が波動をつくり、大規模な海流を駆動することを学んだ。今回は海と気象および大気の平均的状態の表現型である気候との関係について考える。海は地球表面の7割で大気と接しているから否応なく毎日の天気や気候に大きな影響を与える。そうした観点から見たときの海洋および海水の物理化学的特質は次のようにまとめられる。
(1) 海水は温度を変えずに多くの熱を吸収する。海水の比熱は空気の約4倍で、全質量も約300倍と大きいため、大気の約1000倍の熱を貯えることができる(両者とも平均温度は270Kと大雑把に見積もった)。海は吸収した太陽エネルギーを数10年あるいは数100年かけてゆっくり放出し、大気は数日から数週間で熱エネルギーを解放する。海は巨大な熱の貯蔵庫として気象と気候に多大な影響を及ぼす。
(2) 海は緩やかに変動する。巨大な海水を湛える海は力学的にも大きな慣性をもつ。海は表面から熱せられて安定化する傾向があるため海水の運動は水平方向に卓越し、運動量・熱・物質の輸送も拡散と移流が支配的である。
太平洋はじめ世界中の海で時間スケールが20年とか50年(1)の変動が知られるようになった。熱塩循環は1000年の時間スケールをもつ。このように海は気候変動の時間スケールが長くなるほど重要性を増す。
(3) 海洋は大循環を行う(図4.1、図4.2)。海洋大循環は熱帯のあり余る熱エネルギーを高緯度に運んで南北間の不均衡を解消する。また、さまざまな物質を運ぶ。
(4) 海水は物質をよく溶かす。すぐれた溶媒としてほとんどすべての元素を溶かし、地球生物化学の進化の舞台になってきた。炭素循環で果たす海の役割も二酸化炭素を吸収し大気の温室効果を和らげる視点から注目される。
(5) 海は大きな水瓶である。海面から蒸発した水蒸気は雲になり、地球の平均雲量を約50%に保っている。この雲の日傘効果により地球の反射率(アルベード)は30%に維持され、その温室効果も手伝って生物生存に適した地球環境がつくられている。雨水は陸上を流れてふたたび海に帰るが、地表を削っては様々な物質を海に運びこむ。
(6) 波の飛沫は凝結核をつくる。海面からは海塩核や硫酸エアロゾル(DMS)(2)が盛んに飛散し、雲の生成に不可欠な凝結核を供給している。
(7) 海水は凍る。高緯度で生成される海氷は大気中の雲に似て太陽放射を反射し海の放熱を遮断する。
4.2 海との縁が深い気象と気候の例
(1) 台風
海がなければ存在しないのが日本の夏を代表する台風である。この低気圧は積乱雲集まった渦巻きで海面水温が26 ℃ 以上の赤道を除いた熱帯海域で発生する。発生場所が限られる理由は、水蒸気の凝結の潜熱が台風のエネルギー源であるため水蒸気の豊富な海上でなければならないこと、および渦を巻くためには自転の効果(コリオリの力)がない赤道では都合が悪いことであるが、統計的に得られた26 ℃なる数値の熱力学的な意味は不明である。台風は年に約28個発生し、その幾つかが日本に接近したり上陸する。風水害の原因になり厄介もの扱いされるが大切な水資源をもたらす。
(2) 日本の気候
気温と降水量は代表的な気候の指標である。日本の気候の特徴は桜前線の動向が示すように南北の気温差が大きいことと全般に降水量が多いことである。雨が多い(日本の年間降水量は1700mm、世界平均750mmの2倍以上)のは四面環海の国だからであろう。
(3) 富山の雪
日本の冬はシベリア気団に覆われるときに始まる。この大陸性気団は冬のシベリア大陸を発源地とする非常に寒冷で乾燥した気塊であるが、日本海を移動するうちに対馬暖流から熱と水蒸気を供給されて変質する。下層から暖められ不安定になった気塊は脊梁山脈により強制上昇させられて日本海側に多量の降水をもたらす。こうして低緯度の富山でたくさんの雪が降るという世界的に珍しい現象が生じる。
(4) 海流の影響で稚内は網走や釧路より暖かい
日本海を北上する対馬暖流(の一部)は宗谷海峡からオホーツク海に流れ出る。そのため最北端の稚内(45°25′)はこれより南に位置する網走(44°01′)や釧路(42°59′)より暖かい。すなわち3地点の年平均気温はそれぞれ6.6 ℃、6.2 ℃、5.9 ℃である。ただし釧路の気温が低いのは親潮(千島海流)の影響が大きい。
(5) 西岸気候イギリスやフランスはサハリンと同じ緯度で北海道の北に位置するがメキシコ湾流の影響で気温と湿度が高く冬も比較的に暖かい。
(6) モンスーン(季節風)
海洋と大陸の熱的性質の差によってひきおこされる大規模な気象現象である。日本では冬季の北西季節風を思いうかべるが、インドに恵みの雨をもたらす南西季節風が有名である。この現象は夏期にヒマラヤ・チベットの地表が加熱されて低圧部となるところへ海洋(インド洋)から高温多湿の気流が流れ込んで生起する。雨季をもたらす南西季節風は約6ヶ月で北東季節風と交代して乾季となる。アラビア海やインド洋のダウ船(dhow)は昔からこの季節風を利用して交易をしてきた。
(7) 海岸砂漠
アフリカ南西部の海沿いにナミビア砂漠がある。海岸のすぐそばを赤茶けた色の砂漠が延々と続く景観は異様である。この砂漠は、亜熱帯高圧帯の沈降気流と寒流(ベンゲラ海流)がつくったものである。沈降気流が断熱的に昇温してできた暖かく乾いた空気が、寒流が流れる海の冷湿な空気の上に乗って逆転層が形成される。逆転層(普通は上空ほど冷たいことが常態であることから命名された)ができると対流が起こりにくく雨が降らない。こうして水蒸気が豊富なはずの海岸沿にナミブ砂漠は形成された。
図4.1 世界の表層海流図(風成循環) (Trenberth,K.E. Climate System odeling.)
図4.2 世界の深層循環(熱塩循環)(気象庁ホームページ)
4.3 大気と海洋の典型的な相互作用
地球に入射する太陽放射エネルギーは1370Wm-2(3)である。このうち30%は反射されて宇宙空間に返されるが残りは地球に吸収される。大気が直接吸収する日射量は非常に少なく大部分は地表面に吸収される。地球表面の7割を占める海は陸に比べて熱容量が大きく貯熱能力が高いので地球が吸収した熱エネルギーの多くは海面を通して大気に与えられる。地球の公転面と自転軸の傾きによって地球が吸収する太陽放射量と地球が射出する赤外放射量の間に南北差が生じる。この差を解消して年間収支を0にするカラクリとして大気および海洋は大循環を行っている。大気は海面で暖められると不安定化するため積雲が発生する。多量の水蒸気が凝結して低気圧が発達すると、そこに吹きこむ風が強まる。
海面を吹く風は流れをつくり水温分布を変える。そうすると低気圧も移動して風の分布が変わる。このように大気と海洋は互いに作用を及ぼして変化する(図4.3)。
大気・海洋相互作用の顕著な例はエル・ニーニョ現象である。熱帯太平洋では貿易風が恒常的に吹いている。この東風に引きずられた赤道の海水(図4.4)は西太平洋に押しつけられ深さ150m程の暖水溜まり(プール)をつくる。ところが数年に一度何らかの原因で東風が弱くなると、西に堆積していた暖水が東へ逆流し、ふつうは冷たいペルー沖の海水温を上昇させる。この数年間隔で起こる暖水の移動現象により太平洋赤道海域の水温が上昇する現象をエル・ニーニョ(El Niño)といっている。最近では1997-1998に大規模なエル・ニーニョ現象が発生して世界各地に異常気象が頻発した。乾燥地帯のペルーやカリフォルニアで大雨、竜巻、洪水が起き、湿潤なインドネシアに旱魃や山火事が発生した。
通常、海水温の高い赤道西太平洋に対流活動の活発な低気圧があり東太平洋に高気圧があって、下層で東風、上層で西風という東西循環(ウォーカー循環、図4.5)が形成されるが、エル・ニーニョのとき(図4.6)は対流活動の中心が東にシフトして赤道太平洋の東風が西
風に変わってしまう。これに関連して南方振動(Southern Oscillation)という現象が知られている。これは南太平の東と西に存在するタヒチ(通常は高気圧におおわれた有名な観光地)とダーウィン(通常は低気圧内に位置するオーストラリア北部の町)の年平均気圧が、一方が上がると他方が下がる変化を繰り返す現象である。実はこの二つの現象、すなわちエル・ニーニョなる海洋現象と南方振動という大気現象の間には密接な相関関係がありエンソ(ENSO)と呼ばれるようになった。エル・ニーニョのときはタヒチの気圧が下
がり、通常年にはタヒチの気圧は上がる。このような海面水温と地上気圧の結びつきは海洋と大気の間の強い相互作用があることを意味する。エンソの発生原因には、赤道を吹く東風と西風の交代が海に大規模な波動(ケルビン波とロスビー波)を誘起して暖水の移動を引き起こす、という考え方があるが未解明な部分が少なくない。ただ1985年以降、エル・ニーニョ現象に対して世界規模の観測が行われ、熱帯大気における対流活動の影響が赤道太平洋にとどまらず世界各地に波及する事実(テレコネクション)が明らかにされるなど研究はおおきく進展している。
一口メモ:
IPCC第4次報告によると大気も海洋も確実に暖まったという。
* 地球全体の平均気温は過去100年間に0.74℃上昇した
* 過去50年間、海洋も同時に温暖化している
* 海水準の上昇は過去100年間余りで17cmに達した
図4.3 大気-海洋の相互作用(NOAAホームページ)
図4.4 海面に働く風応力(年平均値)
図右下の矢は5 dyn cm-2に相当。0.5、1、2、3 dyn cm-2
の等値線をプロットしてある。(Trenberth et al.1990)
図4.5 太平洋のウォーカー循
(Trenberth,K.E. Climate System Modeling)
図4.6 エルニーニョ現象の概念図 (NOAAホームページ)
まとめ
1 海は熱容量が大きい(顔色を変えずに沢山の熱を吸収する)
2 海の変動は緩やかである
3 海水は物質をよく溶かす
4 波の飛沫や海氷も気象と関係する
5 台風は海がなければできない
6 富山の雪は対馬暖流がつくる
7 日本は島国だから雨が多い
8 西岸気候や海岸砂漠は海流がつくる
9 渇いたインドの慈雨はインド洋からやってくる
10 エルニーニョは大気-海洋相互作用の典型例である
よくある質問
① 映画でとても大きな波が襲ってくるのを見たが、実際に観測され
た最大の高波は何mであったか
(答)風浪ではラマポ号が34mの高波を北太平洋で観測(1933)した。
最近では2000年11月4日にNOAAの観測船が30mの波を観測した。
こうした高波をfreak waveという。またリツヤ湾では520mの津波
(1958)があった(4)。
② 海によって塩分は異なるか
(答)場所や時期にもよるが、一般に太平洋の塩分は大西洋の塩分
より小さい。
ただし、塩分をきめるイオンの組成比はどこの海も一定である。
③ 風浪と波浪の違いは何か
(答)風浪とうねりをあわせて波浪と呼んでいる。
④ 仮に海と空気の密度が等しければ風浪はできないのか
(答)その通りできない。波の力学では密度の違いが大切である。
⑤ 海水の動きに対して地球の自転はどのように影響するのか
(答)北半球では動く物体に対して右直角方向に、単位質量あたり
2☓(その地点の自転の角速度)☓(物体の速度)の大きさの
見かけの力(コリオリの力という)が働く。
参考文献
(1)UNFCC/WMO/UNEP IPCC Fourth Assessment WG1 Report. IPCC、
2007
(2)原島省、功力正行著「海の働きと海洋汚染」裳華房、1997
(3)小倉義光著「一般気象学」東京大学出版会、2000
(4)三好寿著「波・津波」河出書房、1971
第3回「海洋の物理」
石森繁樹
(1) 波浪
密度の違う空気と海水がそれぞれ違う速度で運動すれば、水面が不安定になり起伏(波)ができます。風が吹くと海面に波が立つということです。これを風浪といいます。風はもともと強くなったり弱くなったり変動しますから発生する波もいろいろな大きさの波が入り混じっています。形状も動きも複雑な風浪(図1)を正確に表現することは簡単ではありませんが、ふつう確率統計的な考えを根拠にしたスペクトル法(7)が用いられます。風浪をいろいろな波の集合と見たて、どの波長帯にどれだけの波エネルギーが存在するかを知り、波高や周期などの物理量を求める手法です。これによれば、天気予報で波高2mの波という場合は目視で約2mの波という意味であり、1000個に1個はこの2倍すなわち4mの高い波も混じる可能性があると解釈しなければなりません。
風浪は風速、風の吹き続く時間(duration)、風の吹き渡る距離(fetch)の3要素によって発達の度合いが決まり、このいずれもがある大きさ以上になれば十分に発達します。反対に、例えば吹き続く時間が十分でなければ、これが制限因子になって大きな波に成長できません。台風の暴風域では風浪が十分に発達して海は大時化(しけ)になります。風浪は波長によって位相速度が異なる分散性の波動で、長波長の波ほど早く進みます。台風の余波である土用波は、大時化の海から一群の波が足並みを揃え整然とやってくるうねりです。風浪とうねりをあわせて波浪といいます。
ランダムな風浪を波の集合と見たてることは前述しましたが、そのもっとも基本となる波は正弦波です。静かな水面に風が吹くと漣(さざなみ)ができます。これは風のストレスの微小変動で生じる波で、表面張力を復元力としています。さらに風が吹き続け水面へ連続的に運動量が与えられると、重力を復元力とする波になり、きれいな形をした正弦波として水面を伝播していきます。
正弦波が水の波の基本として登場する背景はこうです。(表面)重力波の理論は二つの基礎方程式と波の運動に関する境界条件および波の力学に関する境界条件によって構成されます(資料参照)。流体の圧縮性と粘性を無視し、外力は重力だけを考え、波の振幅は波長や水深と比較して非常に小さいと仮定して方程式と境界条件を線形化すると正弦波の解が得られます。この解は線形性のゆえに水面を独立に伝播するからランダムな風浪を記述するうえで好都合です。
このような考察から、水深hの海に波長λの重力波があるとき、波は(1)式の位相速度cで進むことが知られます。(2)式は波長が水深より小さな深い海(h>λ)の波の速度です。この波を深海波といいます。(3)式は波長が水深より大きな浅い海(h<λ)の波の速度を示します。この波を浅海波といいます。
深海波は速度が波長の関数で、大きな波ほど速く進む分散性の波動です。深海波にはつぎのような性質があります(資料参照)。
*深海波に伴う水粒子の運動の軌跡は円になり、海面から半波長の
深さでは波の動きはほとんどなくなります。
*波のエネルギーは波高の2乗に比例して大きくなります。
*波のエネルギーは群速度(深海波の場合は位相速度の半分)で
伝播します。
フォ
(2)海流
風は波を生じるだけでなく、海流の起動力にもなります。風の応力で表層の海水が流されると粘性によって直下の海水も動き出します。こうしてできる海流を吹走流(すいそうりゅう)(2)といいます。海水の動きが緩慢なため地球自転の影響が効いて表面の海水は風下右45度の方向に流れます(北半球の深い海で)。表面から深くなると流れが弱くなり、方向もさらに右へ向くようになります(図2)。海流が生じる深さ(せいぜい100mです)までの平均をとると吹走流は海水を風下の右直角(北半球で)に運んでいるのです。これをエクマン輸送といいますが、この面白い結果は海面から海流が認められる深さまで海水の質量輸送量を積分することで導かれます(資料参照)。地球上の風系の変化に対応してエクマン輸送の水平収束や発散が起これば鉛直方向に運動量が運ばれて海水の動きが100m以深に達することがあります。北太平洋の亜熱帯高圧帯の北側では偏西風が吹き、南側では貿易風の東風が吹いています。その結果、海の表層に時計回りの循環が形成され、上記のエクマン輸送により海水が中央部に集められて高圧帯の水面が盛り上がります。実はこのとき表面だけでなく海面下にも時計回りの循環が形成されます。これは、海のある深度に水平面を想定すると盛り上がった水面の真下で水圧が高くなり、その面内に高気圧(気象用語を借用して)が出来るからです。この循環は赤道海域を東から西へ流れる北赤道海流、フイリッピンにつきあたり北上する黒潮(暖流)、その続流が中緯度帯を西から東に流れる北太平洋海流、さらにこれが北米大陸につきあたり南下するカリフォルニア海流という四つの海流で還流(gyre)を形成します。このような還流は亜寒帯にも見られ、そこでは反時計回りの海流系となり大平洋の西端を北から南へ親潮(寒流)が流れています。このような海洋表層の水平循環は風(図3)によって駆動されるので風成循環といわれます(図4)。当然ながら、還流は大西洋やインド洋にも存在します。
海流の中には黒潮やメキシコ湾流など大洋(ocean)の西を流れる海流が強くなるという特徴があります。これは地球自転の効果が緯度によって変化するために起こる現象で海流の西岸強化として知られています。
北赤道海流に対して南半球では南赤道海流が西向きに流れていますが、両者の間の赤道海域には湧昇といって下層から冷たい海水が上昇しています。これはエクマン輸送によって北半球の北赤道海流が海水を北に運び、南半球の南赤道海流が海水を南に運ぶため、その間の失われた海水を埋めあわすために湧き上がる現象です。湧昇は下層の冷たく養分に富んだ海水を表層にもたらすので植物プランクトンが繁殖し良い漁場が形成されます。赤道海域のほかにはカリフォニアやペルーなど大陸の西岸沖にも湧昇が見られます。
図2 エクマンの螺旋(北半球)
図3 年平均の海上風(m/s)(3)(ECMWFデータによる)
フォーム
フォームの終
図4 風成循環の模式図(3)
前回学習したように海は表面から暖められ表層、水温躍層、深層の安定な成層構造をしています(図5)。熱の拡散は海水温を一様にしますから、永年的な水温躍層の存在は不思議な現象といえます。また、全海水の75 % を水温3.5 ℃ 、塩分34.7 psuの冷たい水塊(図6)が占めるという事実は表層の暖かい水の下で盛んな混合が起こっていることを暗示しています。
図5 水温と密度のプロフィール(4)
図6 四角で示される海水(水温-塩分)
が全海洋の75%を占める(5)
こうした深層の循環は極域から重い海水が沈みこんで生じます。大西洋の北部グリーンランド沖と南極海のウェッデル海では冷却と塩分の付加により高密度になった海水が沈降し深層に対流をひき起こします。あらたな海水の闖入により深層のあちらこちらで上昇流ができます。自転する地球流体の性質(6)により、これは水柱の伸張を介して深層の表面付近で南北へ向かう水平の流れを生じます。沈み込んだ冷たい海水は大洋の西岸で強化されて南下します。海水の密度の違いに起因するこの深層の流れは熱塩循環といわれます。図7はこの様子を応用数学者のStommel,H.が50年ほど前に描いたものです。沈降した海水が大西洋、インド洋、太平洋の深海を流れ、やがて風成循環の表層海水と混合しながら再浮上しています。2千年の旅といわれる深層大循環が少数の特定箇所から沈んだ海水によって駆動されているとしたら大変面白いことです。
図7 深層循環の模式図
(ストンメルによる)
まとめ
1 ふつう目にする海の波は風がつくる風浪である。分散性の波動であ
るため浪源から離れたところには整然としたうねりとして伝播してくる。風浪とうねりをあわせて波浪という。
2 波浪は波長が海の深さより長いか短い(小さい)かにより、性質が
異なるので深海波と浅海波に区別する。
3 波形は位相速度で進行し、波浪のエネルギーは群速度で進む。
4 海洋には風成循環と熱塩循環がある。
5 吹走流は表層で風下右45°方向に流れ、鉛直方向には螺旋を描
いて減衰する。全体として海水を右直角方向に輸送する。エクマン輸送という(北半球で)。
6 表層の循環はせいぜい1000mまでの深さに限られる。
7 深層の循環はグリーンランドとウェッデル海から沈みこむ重い海水
により駆動される対流で熱塩循環といわれる。
8 永年的な水温躍層の形成には熱塩循環に伴う上昇(湧昇)流の存在
がある。
よくある質問
① 日本海という呼称は世界的なものか
(韓国では東海と呼ぶと聞いた)
(答)古くはクルゼンシュタインの世界地図(1815)にイポンスカヤ・モ
ーリエの記載があるという。東海、西海、南海、北海なる用語は日本でも他国たとえば韓国でも用いられる。東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる(石川啄木)を想う。
② 海底火山は水温を上げるか
(答)海水温はほぼ太陽エネルギーによって支配されるが、地熱や海底
火山の影響も微弱ながら存在する。
③ 世界の海の最深部の深さはいくらか
(答)マリアナ海溝(11°22′N、142°36′E)の10920m(海上保安庁
観測)である。
④ 寒流の水は海底の水のことか
(答)否。日本周辺では親潮やリマン海流のように寒帯起源の海水のこ
とで、熱帯起源の暖流の海水に対比して使われる。
⑤ 海水はどうして塩辛いか
(答)地史の教えによれば固体地球からの脱ガスは水蒸気、二酸化炭
素、窒素、硫黄、鉄、塩素などを成分としていた。主成分の水蒸気は雨となり凹地にたまり、やがて亜硫酸ガスや塩酸ガスが溶けて酸性と化した。陸上からCa2+、Mg2+、Na+、K+などの金属イオンが海に流れこみ中和されると、二酸化炭素が溶けこみ、Ca2+はCaCO3として海底へと除かれた。こうした過程をへて塩辛い海水ができた。
⑥ プレートはどうして動くのか
(答)地球内部は地球形成時の余熱と放射性元素の崩壊熱でゆっくり
流動している。すなわち、地下深部の高温物質が上昇して海嶺山脈をつくり、地表で冷やされた物質は海溝から地中深く沈み込む、こうした大規模な対流が何億年の時間をかけて起きているとするのがプレートテクトニクスの考え方である。これによれば、プレート運動の3大原動力は、海嶺の海洋プレートを押す力、マントルのプレート下底を曳く力、および、海溝で落ち込むプレート(スラブslub)が後続のプレートを引っ張る力と考えられている(7)。
参考文献
(1) 流体力学の教科書、例えば高野暲著「流体力学」
岩波書店、1977
(2)宇野木早苗、久保田雅久著「海洋の波と流れの科学」
東海大学出版会、1996
(3)Huang,R.X. Ocean Circulation、 Cambridge、
2010
(4)Thurman,H.V. & Trujillo,A.P. Ocaenography、
Prentice Hall、2002
(5)Millero,F.J. Chemical Oceanography、CRC、2006
(6)木村竜治著「地球流体力学入門」東京堂出版、1983
(7)鳥海光弘、玉木賢策ほか著「地球内部ダイナミクス」
岩波書店、1997
第1回「講座のあらまし」
石森繁樹
講座の概要
私たちは四面環海の国に住んでいます。当然ながら自然も社会生活も海の影響を色濃く受けているはずですが、海が話題になることも少なく教育の場でもあまり海を教えてきませんでした。海はふつうの生活感覚からすれば非日常的な存在かもしれませんが、海洋国家を標榜する国民であれば、もっと親しく海に思いを馳せてもよいのではないでしょうか。
かつて「海洋国家日本の構想」(1)という本が関心を呼び、海洋開発が声高に叫ばれた時期(2)もありましたが、総じてわが国の海への取り組みは消極的でした。幸い2007年に関係者が待ち望んだ海の基本理念を定める「海洋基本法」が成立し、2008年には海洋調査の実施、海洋資源の開発、日本籍船の増強、海洋情報の一元管理など海洋権益を守る政策指針が「海洋基本計画」として決定されました。
富山県は、日本海の自然・共生・循環を大切にする視点から環日本海諸国との交流を進め海洋環境の保全に力を入れてきました。ここでは、自然としての日本海、暮らしと産業を支える日本海、地政的に特異な位置にある日本海を念頭に置きながら海と郷土のかかわりを考えてみました。一見、茫洋として捉えどころのない海ですが、富山湾には面白い事象が多いので、身近な例をひきながら海の話を展開できそうです。
講座の大要を次に示します。
1回「講座のあらまし」
全体の構成と各回のあらましを述べます。
2回「海洋概論」
海とはどんなところでしょうか。その自然の特長と社会的な性格について概観します。
九州・津軽海峡間の日本海の沿岸航海や、対岸にあるウラジオストックまでの船旅を経験すると日本海も結構な広さだと感じますが、それでも太平洋の広さと較べれば1%にも満たないというから海はとてつもない広さです。
世界の海の全体像は、いわば1つの器(basin)が平均水深3700mの莫大な海水を湛えた存在です。一方、日本海のほうは大陸と島弧に囲まれ、4つの浅い海峡で外海と通じる平均水深1350mの縁海です。
海底はどのような様子でしょうか。もともと地球が誕生した灼熱状態のとき重い物質は沈み、軽い物質は浮きました。やがて冷え固まって核、マントル、地殻が形成されますが、海底地殻は玄武岩質の重い岩石で、大陸地殻は花崗岩質の軽い岩石でできました。地球表層はこの地殻とマントルの最上部から成る約10枚のプレートで覆われ、互いにゆっくり動いていると考えられるようになりました(プレートテクトニクス(3))。海底の世界は広大な深海大平原と、これを区分けして延々と連なる海底山脈(海嶺)および平原を縁取って走るプレート沈降帯の海溝と、まさに山あり谷ありの地形をしています。
水の惑星といわれる地球表面には約14億km3の水分があり、その97%は海に存在するといいます。その海を知る上で水温Tと塩分Sの観測は重要です。水温は-2~28 ℃、塩分は33~37 psu(practical salinity unitの略で、海水1 kg中の塩分のグラム数)の範囲で変化(4)します。大西洋の塩分は太平洋の塩分より高く、蒸発が盛んな亜熱帯高圧帯では雨の多い赤道や高緯度より高塩分となります。T、Sの分布がわかると海水密度の分布が決まり、水型の判定や水塊の安定性、さらに海水の流動を知ることができます。これまでに得られた観測データから全海洋の平均水温は3.5℃、平均塩分は34.7 psu(4)と計算されます。
日本海の85 %を占める日本海固有水(5)は大変に冷たく低塩分で水温0.0~1.0 ℃、塩分34.00~34.10 psu、溶存酸素量210~260 μmol kg-1(海水1kgに溶存する酸素分子の数マイクロ・モル)の均質な水塊です。
大気を鉛直温度分布で対流圏、成層圏、中間圏、熱圏と区分けするように、海洋も海水の密度差により海面から混合層、水温躍層、深層に分類したり、表層水、中間水、深層水、低層水と区分することがあります。
海水にはほとんど全ての元素が含まれ、水の成分であるHとOを除けば、濃度の順でCl、Na、Mg、S、Ca、Kの6主要元素が99 % 以上を占めるということです。これらの元素は塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)などの塩として溶け海水中ではイオンになっています。面白いことに、これらイオンの組成比はどこの海でもほぼ一定であることが知られています(チャレンジャー号の世界周航海洋調査でディットマーが発見、1884)。大気の成分組成(混合比)も高度80kmまではほぼ一定ですから、海も大気も対流や大循環の作用のより、よく混合されていることがわかります。
海には光合成を行う植物プランクトン(生産者)、それを消費する動物プランクトンや魚(消費者)、そして生物の死骸や糞を分解するバクテリアなど多様な生物が棲み、豊かな生態系をつくっています。そうした生物の成長や活動にはさまざまな微量生元素が必要ですが、とりわけ農作物の肥料にあたる窒素(N)、リン(P)、珪素(Si)が重要です。
海水は弱アルカリ性(pH 8.1)ですが、大気中の二酸化炭素が増大すると海洋が酸性化し海洋生態系への影響が懸念される、という議論があります。
昔から海は食料収穫の場であり暮らし憩う場でした。ときには多量の物を運び、重い物資を輸送する路となりました。海は国や人を隔てるものでなく結びつけるもの、といわれるように海に親しみ航海の術(すべ)を身につけた民はやがて遠い国へ漕ぎだすことになりました。当然とも云えますが、こうした海での人間活動はすべて自由を原則としていました。
しかし、中世の軍事力をもった都市国家が地中海で海の領有権を主張したり、16-17世紀の北欧やイングランドが排他的漁業専管水域をめぐり海の線引き論争を起こしました。こうした風潮はグロチウスの「自由海論」やセルデンの「閉鎖海論」(6)をうみ、18世紀には多くの国が領海を主張するようになります。第2次世界大戦後、アメリカのトルーマン大統領が大陸棚宣言を行うと、これに同調して中南米を中心とする国々が広い海域を自国の領海と主張しだしました。
長年にわたる海の秩序を乱すこのような不穏な動きに歯止めをかけようと国連海洋法会議が開催されることになります。1958年から四半世紀の審議を経て1982年に海洋に関する包括的な国連海洋法条約が採択されました。こうして沿岸国の主権が領海(12海里)、排他的経済水域(200海里)、大陸棚(最大350海里)に及ぶようになり、世界は200海里時代に突入しました。いまや海の40%はいずれかの国の管轄下に属し、自由な海はわずか60%とたいへん狭くなっています。
3回「海洋の物理」
2008年2月富山湾に大規模な高波被害が発生しました。海の波にはどのような性質があるのでしょうか。密度の違う空気と海水がそれぞれ違う速度で運動すれば、水面が不安定になり起伏(波)ができます。風が吹くと海面に波が立つということです。これを風浪といいます。風はもともと強くなったり弱くなったり変動してますから発生する波もいろいろな大きさの波が入り混じっています。形状も動きも複雑な風浪を正確に表現することは簡単ではありませんが、ふつう確率統計的な考えを根拠にしたスペクトル法(7)が用いられます。これは風浪をいろいろな波の集合と見たて、どの波長帯にどれだけの波エネルギーが存在するかを知り、波高や周期などの物理量を求める手法です。これによれば、天気予報で波高2mの波という場合は目視平均で約2mの波という意味であり、1000個に1個はこの2倍すなわち4mの高波も混じる可能性があると解釈しなければなりません。風浪は、風速、風の吹き続く時間(duration)、風の吹き渡る距離(fetch)の3要素によって発達の度合いが決まり、このいずれもがある大きさ以上になれば十分に発達します。反対に例えば、吹き続く時間が十分でなければ、これが制限因子になって大きな波に成長できません。台風の暴風域では風浪が十分に発達して海は大時化(しけ)になります。風浪は波長によって位相速度が異なる分散性の波なので波長の長い波ほど早く進みます。台風の余波である土用波は、大時化の海から波の一群が足並みを揃え整然とやってくるうねりです。風浪とうねりをあわせて波浪といいます。
海には波のほかに海流といわれる流れがあります。日本海の特徴は対馬暖流という海流の影響によるところが大きいのですが、対馬暖流の駆動力は何かといった問題を考えてみます。
4回「海洋と気象」
海洋は次のような性質によって気候を調節しその変動に深く関わっています。
海には熱容量が大きいという性質があります。海水の比熱は空気の4倍で、全質量も約300倍(両者とも平均温度はほぼ270Kです)と大きいものですから、海は大気の約1000倍の熱を貯え大きな熱的慣性をもちます。海洋は太陽エネルギーを吸収し、それを数10年あるいは数100年かけてゆっくり放出します。因みに大気のほうは数日から数週間でエネルギーを解放してしまいます。
海は緩やかに変動します。巨大な海水を湛える海は力学的慣性が大きく、太陽放射を海面から受けて熱力学的に成層が安定し、運動量・熱・物質の輸送も移流や拡散が支配的ですべてがゆっくり変動します。太平洋はじめ世界中の海で時間スケールが20年とか50年の変動(8)が知られるようになりましたが、海は気候変動の時間スケールが長くなるほど重要な役割を果たします。
海はさまざまな物質を溶解します。この物質を溶かす性質が多量の二酸化炭素を吸収して大気中の温室効果を和らげます。
海の波の飛沫は雲の生成に欠かせない凝結核をつくります。凝結核としては海塩核や硫酸エアロゾル(DMS)(9)などが重要です。
ときに、海の表面は凍ります。海氷は大気中の雲と似て、太陽放射を反射し海の放熱を遮断します。
5回「海洋と生物」
地球上には多様な生物がいます。現在知られている約180万種は陸上生物が圧倒的に多く海洋生物はわずか25万種にすぎないといわれます。海に住む生物についてはまだ知られていないことも多く、実際には1億種の生物がいるとも考えられています。
それにしてもいろいろな海の生き物がいます。脊椎動物では魚類や鯨などの哺乳類、原索動物のホヤ、節足動物のエビや蟹、軟体動物のイカや貝など、植物ではワカメや珪藻といった藻類、これらは誰もがよく知る生物です。小さなプランクトンやバクテリアになると顕微鏡を使わないと見ることができませんが、これら微小な生物の種数や個体数は非常に多いようです。
生き物にとっての生活環境は海と陸とでおおいに異なります。陸上生物の活動はほぼ大気と陸が接する面に限られますが、海の生物は海面から暗黒の海底まで広々とした3次元空間を棲家とします。海では温度や塩分の変化は緩慢で安定していますが、光は吸収されて急速に減衰します。とくに長波長の赤色光は水によく吸収されて、20 mも潜ると青味がかった世界になってしまいます。植物プランクトンの光合成量が呼吸量とつり合う深さ(補償深度)は場所や条件によりますが100mの程度です。
水中では圧力が10m降下する毎に1気圧ずつ増えます。したがって100m潜水すれば11気圧という高圧で暗黒の世界になります。また密度、粘性、重力(浮力)、熱容量も陸と海とでは大きく異なります。
海洋生物はその生活スタイルからプランクトン(浮遊生物)、ネクトン(遊泳生物)、ベントス(底生生物)に分類されます。
こうしてグループ分けされた海洋生物はそれぞれが勝手に独立して生きているわけでなく、食う・食われるの行為を介した大きな生命(いのち)の輪で結びついています。
植物プランクトンは二酸化炭素をとり込み、太陽の光エネルギーを利用して光合成を行います。そのエネルギーは有機物に化学エネルギーとして貯えられます。動物プランクトンは植物プランクトンを捕食し、呼吸をして二酸化炭素を放出します。この動物プランクトンを小魚が食べ、これをまた大型のネクトンが餌とします。この過程でも呼吸により活動の源泉の化学エネルギーがとり出され、同時に二酸化炭素が放出されます。また動物の体内で不用になった蛋白質はアンモニアの形で尿となって排出されます。死んだ生物は海底に落ちてベントスの餌となりバクテリアに分解されて二酸化炭素やアンモニウム塩・硝酸塩として再び生物に利用されます。
このように炭素や窒素などの無機物および太陽エネルギーは生物のからだの中で有機物に変身したあと、やがて分解されてもとの無機の炭素や窒素に還元されます。この過程で、物質は生態系の中を循環しますが、エネルギーの方は化学エネルギーとして次々に生態系を流れ行くだけで(最終的に熱エネルギーとなって散逸し)再び生物によって利用されることはありません。
6回「海洋基本法」
海の権利義務関係を律する国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea:UNCLOS)は1982年に採択され、1994年に発効しました。平成19年2月現在、152カ国が本条約を締結しています。本条約は全17部320条の本文と9つの附属書から成る長大な法体系で、領海、公海、大陸棚といった従前の分野に加え、国際航行に使用される海峡、排他的経済水域、国際海底機構、紛争の解決のための国際海洋法裁判所設立など新たな規定が設けられました。主な内容を要約しますと、① 沿岸国の主権関連:領海が12海里、排他的経済水域(EEZ)が200海里と定められました。これにより沿岸国はEEZ内で漁業、鉱物資源、海洋汚染防止について主権をもつことになります。② 船舶の航行関連:領海における無害通航権と国際海峡における通過通行権が認められました。③ 深海鉱物資源関連:公海における海底資源の開発は国際海底機構(ISA)の管轄下に置かれるように決められました。議論の多いところで最近、法のこの部分に自由市場原理と私企業活動を優遇する修正措置が施されました。④ 紛争の調停関連:海洋法条約に関連する紛争を調停する目的で国際海洋法裁判所が設立されました。
2007年「海洋基本法」が成立しました。これにより日本の海洋政策は一元的・総合的に推進できますので、法の目的通り世界に冠たる海洋立国を実現したいものです。
7回「海の安全」
日本国民は恒久の平和を念願し、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して(日本国憲法)行動する者ですが、平和に対する脅威や侵略行為その他の平和の破壊行為(国連憲章)があれば、万全を尽くしてこれを防止しなければなりません。わが国の領土を劃する国境は海上にありますが、昨今、領海侵犯、不審船事犯、海賊行為が多発しています。日本周辺海域の防衛・警備態勢は万全でしょうか、日本の安全保障と海洋秩序の維持について述べます。
8回「日本海の特性」
日本海はユーラシア大陸中緯度帯の東端に接する縁海で、4つの浅い海峡で外海と連絡しています。東部にはプレート境界が南北に走り、地殻変動が活発(10)で海底地形にも特徴があります。日本海は、大半を冷たい日本海固有水が占め、その上に対馬暖流系の水が薄く覆いかぶさった二重構造をしています。本邦日本海側が世界的に有数な多雪地帯であることも、富山湾で暖流系魚類と寒流系魚類が獲れるのも、この構造に由来します。このような日本海の特性について学習します。
9回「富山で生まれた日本海学」
日本海を共有する環日本海地域の人と自然、あるいは人と人のかかわりを学際的・総合的に研究する「日本海学」(11)について紹介します。
10回「富山湾-自然の恵みと神秘Ⅰ」
私たちは富山湾から沢山の恵みを得ています。なかでも鰤、シラエビ、ホタルイカなど海の幸は人々の食生活を豊かにし、観光の振興に役立っています。天然の生簀(いけす)といわれる富山湾では暖海性の魚と寒海性の魚が獲れ、環境に優しい定置網漁のお陰でキトキトの味が楽しめます。魚が旨いのも、それなりの理由がなければなりません。名物誕生の根拠を富山湾の特徴の中に探ります。
11回「富山湾-自然の恵みと神秘Ⅱ」
富山湾といえば蜃気楼が有名であるように、ここには魚以外にも興味ある事象が少なくありません。3000m級の北アルプスから1000mの海底に一気にかけ落ちる地形そのものが特異であるほか、一万年前の海底林は世界的にも貴重な天然の遺物です。先人のお蔭で様々な知見が得られていますので、その経緯を振り返るとともに、今なお未解決な問題について紹介します。
12回「富山湾-海に生きた人と暮らし」
富山湾は天然の良港でありますから昔から水運が栄え、日本海を往来する多くの北前船で賑わいました。とくに江戸の文化文政のころは米の増産とニシン肥料の需要が相まって多くの裕福な海商が誕生し越中海運の黄金時代が出現しました。長者丸の次郎吉らが活躍したのもこの頃です。
能登半島に抱かれた富山湾は古くから漁業や舟運が発達し、河口や潟を利用した漁港や貿易港が築かれてきました。富山県には16の漁港が存在し、定置網漁業を主とする沿岸漁業とイカ釣りやカニかご漁業などの沖合漁業の拠点になっています。湾奥には歴史的に由緒ある伏木富山港が存在し、1986年に国際貿易上の特定重要港湾に指定されました。同港は伏木地区の伏木港、富山地区の富山港、新湊地区の富山新港の3つの港から成りたっています。伏木港は万葉の時代から利用され古い歴史をもつ港で、小矢部川の河口港として栄え、最近は万葉埠頭を築造し、国際貿易港としての機能を向上させました。富山港は北前船時代から賑わいをみせた神通川の河口港で、現在は沖合に28万トンのタンカー荷役用の施設を有し、原油の荷揚げを行っています。富山新港は新産業都市の指定を受けて1968年に誕生した新しい港です。
13回「水中カメラから見つめる日本海の自然環境」
陸上に四季の変化があるように、海中にも季節ごとの生き物の変化や景観の違いがあります。日本海の四季の移り変わりを、ホンダワラの海中林、カミクラゲの出現、ワカメ漁、雪解け水の流入と海底湧水の増加、アメフラシの産卵、ホタルイカの身投げ、アンドンクラゲの大発生、死滅回遊魚、アユの幼魚などの映像で紹介します。
14回「海洋観測と技術」
海を知る最良の方法は海を観測することです。海の観測といえば流速を測るものや水温、塩分、透明度など海水の特性を知るためのものが代表的ですが、目的によってさまざまな観測が行われます。海洋観測指針(気象庁)には、採水と測温、測流、海水の透明度と水色、測深、海洋の底質と地殻、海水の化学分析、海洋生物、海洋の放射能、波浪、潮汐、津波と高潮、海氷の測定について総論、測定方法、測定機器、計算方法、観測結果の整理、原簿の記載法など詳細な記述があります。ここではリモートセンシング技術を用いた富山湾の波浪の観測例を紹介します。
15回「まとめ」
学生さんの海に対するイメージにはさまざまなものがあります。<海はとても神秘的である、海を眺めていると心が安らぐ、海は人間にとり母のような存在である、海には謎がありすぎて海が何ものか理解しにくい、風の強い日の波には迫力があった、海は奇妙な生物がいたり、水が汚れていたりマイナス・イメージが強い、海には生活の糧を与えてくれるありがたい面と国際紛争の場になる厄介な二面性がある>などですが、ここに海への関心の潜在的な高さを感じます。
「私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ」(12)(ジャン・コクトー、堀口大学訳)という2行詩があります。海が命のふるさとであるせいか、海の深みへ誘(いざな)ってくれる響きに多くの人が共感を覚えるようです。
八尾に海韻館という化石資料館があります。「聞こえています、かつて海だった頃の海韻が」とは当館パンフの文言ですが上の詩と一脈通じるものがあって面白いと思います。
最後に、誰もが知る海の歌を口ずさんで第1回の終わりとします。
* 春の海 ひねもすのたり のたりかな(蕪村)
* いな妻や 浪もてゆえる 秋津島(蕪村)
* 大海の 磯もとどろに よする波 われて砕けて 裂けて散るかも
(源実朝)
* われは海の子白波の さわぐ磯辺の松原に 煙たなびくとまやこそ
我が懐かしき住みかなれ(文部省唱歌)
* 名も知らぬ遠き島より 流れよる椰子の実ひとつ 故郷の岸を離れ
て 汝はそも波に幾つき(島崎藤村)
* あゆの風 いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣りする小舟 漕ぎ
隠る見ゆ(大伴家持)
* 海のあなたの(13)遥けき国へ いつも夢路の波枕 波の枕のなく
なくぞ こがれ憧れわたるかな 海のあなたの遥けき国へ
(テオドル・オオバネル、上田敏訳)
参考文献
(1)高坂正堯著「海洋国家日本の構想」中央公論社、1965
(2)海洋開発審議会「長期的展望にたつ海洋開発の基本的構想」、
1980
富山県海洋総合利用対策研究会「富山県海洋総合利用基本調査体系報告書」、1982
(3)高校「地学」教科書や岩波講座「地球惑星科学」シリーズ
岩波書店、1996
(4)Millero,F.J. Chemical Oceanography. 3rd ed. CRC Press,
2006
(5)気象庁ホームページ「日本海固有水」で検索
(6)高梨正夫著「海洋法の知識」成山堂、1979
(7)Holthuijsen,L.H. Waves in Oceanic and Coastal Waters.
Cambridge, 2007
(8)UNFCCC/WMO/UNEP IPCC Fourth Assessment WG1 Report. IPCC,
2007
(9)原島省、功刀正行著「海の働きと海洋汚染」裳華房、1997
(10) 大竹政和、平朝彦、太田陽子編「日本海東縁の活断層と地震テク
トニクス」東京大学出版会、2002
(11) 日本海学推進会議編「日本海学の新世紀」全8巻 角川書店、
2001~2008
(12) 文芸春秋編「教科書でおぼえた名詩」文芸春秋、2005
(13) 上田敏訳詩集「海潮音」新潮文庫、2006
第2回「海洋概論」
石森繁樹
第2回 海洋概論
海とは何でしょうか。自然としての海の特質および海洋の国際政治的な性格について概観します。
九州から津軽海峡へ向かう沿岸航海や対岸にあるウラジオストックまでの船旅を経験すると日本海も結構な広さだと感じます。それでも太平洋と較べれば1%にも満たないというから海はとてつもない広さです。
世界の海の全体像は、いわば1つの器(basin)に莫大な水が湛えられた平均水深が3700mの大海原です。一方、日本海のほうは大陸と島弧に囲まれた平均水深が1350mの縁海である。
海底はどうなっているのでしょうか。もともと地球が誕生した灼熱状態のときに重い物質は沈み軽い物質は浮きました。やがて冷え固まって核、マントル、地殻が形成されますが、海底地殻は玄武岩質の重い岩石でつくられ、大陸地殻は花崗岩質の軽い岩石でできました。地球表層はこの地殻とマントルの最上部から成る約10枚のプレートで覆われて互いにゆっくり動いていると考えられるようになりました (プレートテクトニクス)。こうした海底の世界は、広大な深海平原に延々と連なる海底山脈(海嶺)、それにプレートが沈みこむ海溝が配置された、まさに山あり谷ありの様相を呈しています。
大陸棚は海岸線から深さ約200mまでの比較的平らな部分をいいます。そこは氷河時代に陸であったため河川の痕跡、海底林、石油や天然ガス資源などが見つかり、世間から注目される場所になっています。最近は国際法で沿岸国の「領土の自然の延長」と考えられ大陸棚の境界画定(1)をめぐる議論が活発化しています。
この浅い海底の世界は大陸棚から急傾斜の大陸斜面をへて深海底に連なっています。海底斜面には混濁流が刻んだ海底谷やその谷口にはしばしば深海扇状地が発達しています。前述したように平均水深約3700mの海底には平坦な深海底が広がり、所々に海山や海嶺が聳え、陸や島弧に近いプレート境界には深い海溝が見られます。
水の惑星といわれる地球の表面には約14億km3の水があり、その97% は海に存在するといいます。
海を理解する上で水温Tと塩分Sの観測は重要です。世界の海で水温は-2~28℃、塩分は33~37 psuの範囲で変化しています。大西洋の塩分は太平洋より高く、蒸発が降水に勝る亜熱帯高圧帯では多雨の赤道帯や高緯度帯より高塩分です。T、Sの分布を知ると水塊の起源とか海水の流動がわかります。これまでに得られた多くの観測データから全海洋の平均水温が3.5℃、平均塩分は34.7psuと計算されます。
日本海の85 % を占める海水は非常に均一な水塊であるため、日本海固有水(Japan Sea Proper Water)という特別な名前がついています。この水塊の特徴は、冷たいこと(0.0~1.0 ℃)、塩分が低いこと(34.00~34.10 psu)、溶存酸素量が多いこと(210~260 μmol kg-1)です。
大気を鉛直温度分布の違いから対流圏、成層圏、中間圏、熱圏と分類したように、海洋も水温の鉛直分布によって表層混合層、水温躍層、深層に分類します。また、海洋は海水の密度差によって成層しますので表層水、中層水、深層水、底層水と区分することもあります。
海水は熱容量が大きく地球のエアコンとして気候の調節に重要な役割をはたしています。また海の大きな熱的・力学的慣性は生物生存が可能(habitable)な環境をつくりだしています(後述)。
海水は物質をよく溶かし地球の物質循環に大きな役割を果たしています。海にはほとんど全ての元素が含まれ、水の成分であるHとOを除けば濃度順でCl、Na、Mg、S、Ca、Kの6つの元素で99% 以上を占めるといいます。これらの元素は塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)などの塩として溶け海水中ではイオンとして存在します。面白いことに、これらイオンの組成比はどこの海でもほぼ一定であることが見いだされています(チャレンジャー号の世界周航海洋調査でディットマーが発見(2)、1884)。大気の成分組成(混合比)も高度約80kmまでほぼ一定でありますから、海洋も大気も対流や大循環でよく混合されていることがわかります。
海水には酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)などの気体も溶存しています。酸素は直接大気からと植物の光合成から供給され、生物の呼吸や有機物の酸化に使われながら熱塩循環によって深海まで運ばれます。二酸化炭素は植物の光合成に利用され、円石藻(ココリス)やサンゴなどの殻を作るのに使われます。これらの遺体や排泄物の一部は深海に沈降して炭酸塩岩となります。
海には光合成により無機物から有機化合物を合成する植物プランクトン(生産者)、それを餌にする動物プランクトンや小魚(消費者)、そして生物の死骸や糞などの有機物を栄養源とするバクテリア(分解者)など多様な生物が住み、豊かな生態系をつくっています。そうした生物の成長や活動にはさまざまな微量生元素が必要ですが、海ではとりわけ農作物の肥料にあたる窒素(N)、リン(P)、珪素(Si)が重要です。
海洋と物質循環の関わりを炭素について見てみましょう。炭素は宇宙で水素、ヘリウム、酸素の次に多い元素(3)ですが、地球では大気のCO2、生物がつくる有機物([CH2O]n)、地殻を構成する岩石(CaCO3など)などとして存在します。もともと火山の爆発で放出された炭素の一部は生物の有機物生産にとり込まれました。海中に存在する有機炭素はやがて分解されて無機質に戻り、あるものは生物の骨格・殻(炭酸カルシウム)や死骸・糞粒(粒状有機物)として海底に沈み石灰岩(炭酸塩岩)となります。プレート運動で地中深く沈みこんだ石灰岩はマントル内の高温下で、次の化学反応(4)により変性岩(珪酸塩岩)になります。
CaCO3 + SiO2 → CaSiO3 + CO2
変成岩は中央海嶺で噴出して新たな地殻をつくり、やがて風化作用を受けます。この反応で発生したCO2は火山爆発によって大気中に放出されます。このように炭素はさまざまな時間スケールの過程をへて大気、生物、海、地殻の間を循環します。
産業革命以降、大量の化石燃料が使用され大気中の二酸化炭素濃度が急速に増加しました。最近では人間活動により毎年5.5 Pg(ペタグラム、1015g)の炭素が大気中に放出され、そのうち3.3 Pgが大気に留まり、0.7 Pgは陸に、残り1.5 Pgが海に吸収される(5)ということです。
二酸化炭素が大気から海洋に吸収される道筋としては3つの過程が考えられます。一つは、大気と海洋のCO2濃度差によるものです。海面の両側においてCO2の分圧に差がありますとCO2分圧の高い方からCO2分圧の低い方にCO2が輸送されます。この機構による二酸化炭素の輸送は物理ポンプといわれます。海に溶解した二酸化炭素は、水和したガス状のCO2、炭酸イオン(CO32-)、炭酸水素イオン(HCO3-)の状態になっています。この3者の存在比率(6)は1:10:100で、負の電荷をもつ炭酸イオンと炭酸水素イオンが圧倒的に多くなっています。因みに、海中で正の電荷を供給する主な元素はNa、K、Mg、Caで、海水全体が電気的に中性となるようにイオン分布が決まると考えられます(7)。
つぎは、植物プランクトンによる海の基礎生産、すなわち光合成によるCO2の吸収です。海洋生物は炭酸水素イオンから骨格や殻(炭酸カルシウム)をつくります:
Ca2+ + 2 HCO3- → CaCO3 + H2CO3
この反応に使われるCa2+ は珪酸塩岩の風化作用(8)で川から海にもたらされたものです:
CaSiO3 + 2 CO2 + H2O → Ca2+ + 2HCO3- + SiO2
こうして生産された有機物は動植物の死骸や糞粒として深層へ運ばれます。この炭素循環の機構は生物ポンプと呼ばれます。
もうひとつは、深海における炭酸カルシウムの溶解が、まわりまわって大気中のCO2を海にとり込むという機構です。円石藻や有孔虫などの炭酸カルシウム殻が深海に沈降しますと高圧のために溶解しはじめます。たとえば太平洋では約2000mの深さで炭酸カルシウムの溶解がおこります(この深さを補償深度といいます):
CaCO3 + CO2 + H2O → Ca2+ + 2 HCO3-
この反応で使われるCO2は有機物が沈降する過程で酸化され生じたものです。こうして二酸化炭素の少なくなった海水が海洋循環で表面に出てきますと大気からCO2を吸収するというわけです。この過程はアルカリ・ポンプと呼ばれています。
大気中のCO2が増加して海が酸性化(9)(acidification)しますと、CaCO3の飽和度が減少して海に存在するCaCO3が溶け出し、サンゴの成長が阻害(10)されるなどの危険性が指摘されています。
海面を吹く風は波を発生させるだけでなく海面下数100mの表層に風成循環(wind driven circulation)という流れをつくります。また、海水の密度差は深層を流れる地球規模の熱塩循環(thermohaline circulation)を生じます。こうした循環は熱帯のあり余る熱を高緯度に運ぶ働きをします。また月の引力による潮汐などで海水は絶え間なく動いています。この点は海と気候変動のかかわりを理解する上で重要です。
昔から海は食料収穫の場であり、暮らし憩う場でした。ときには、多量の物を運び、重い物資を輸送する路となりました。海は国や人を隔てるものでなく結びつけるものといわれますが、海に親しみ航海の術(すべ)を身につけた民はやがて遠い国へ漕ぎだすことになりました(11)。当然とも云えますが、こうした海での人間活動はすべて自由を原則としていました。しかし、中世の都市国家が軍事力をもち地中海で海の領有権を主張したり、16-17世紀には北欧やイングランドで漁業水域をめぐり海の線引き論争を起こします。こうした風潮はグロチウスの「自由海論」やセルデンの「閉鎖海論」をうみ、18世紀には多くの国が領海を主張するようになりました。第2次世界大戦後、アメリカのトルーマン大統領が大陸棚宣言(12)を行うと、これに同調して中南米諸国を中心とする国々が広い海域を自国の領海と主張するようになりました。
長年にわたる海の秩序を乱すこのような不穏な動きに歯止めをかけようと国連海洋法会議が開催されました。1958年から四半世紀の審議をへて1982年に海洋に関する包括的な国連海洋法条約が採択されました。こうして沿岸国の主権が領海(12海里)、排他的経済水域(200海里)、大陸棚(最大350海里)に及ぶようになり、世界は200海里時代に突入しました。いまや海の40%はいずれかの国の管轄下に属し、自由な海はわずか60%とたいへん狭くなってしまいました。
注)海里とは:
航海や航空界で使われる長さの単位。1海里=1852m。地球の両極を通る子午線の長さを4万kmとしたときの中心角1分に対する円弧の長さ。船の速度の単位1ノットは毎時1海里のこと。
まとめ
1 海は地球表面の7割を占め、平均水深は約4kmである。
2 海底地殻は玄武岩質でできており中央海嶺で誕生し、海溝に沈みこ
む。
3 海洋開発で注目される大陸棚は領土の自然の延長と考えられるよう
になった。
4 日本海の大部分は「日本海固有水」という特異な水塊で占められ
る。
5 海洋は水温の鉛直分布によって表層混合層、水温躍層、深層に分類
される。
6 海水に含まれる主要元素Cl、Na、Mg、S、Ca、Kのイオン組成はどこ
の海でもほぼ一定である。
7 海の基礎生産者は植物プランクトンや海藻である。
8 二酸化炭素は3つの過程で海に吸収される。すなわち物理ポンプ、
生物ポンプ、アルカリ・ポンプの3種類である。
9 海には風成循環と熱塩循環という大循環がある。
10 世界は200海里時代に突入した。
よくある質問
① 深層の海洋循環が熱塩循環といわれる理由を知りたい
(答)深層の海洋循環は大規模な対流現象と考えられる。グリーンラン
ド付近と南極のウェッデル海で冷たく重い海水が沈みこみ、これが引き金となって生じると考えられている。表層海水の密度は温度と塩分で決まる。
② テキストにある「地政的に特異な位置にある日本海」の具体的なイ
メージが描きにくい
(答)環日本海諸国と友好関係がある場合、日本海は国と国を結ぶ明る
い海となる。関係が非友好的な場合は国と国を隔てる暗い海となる。入口・出口の狭い日本海はときに池にたとえられるが、そこに放射性廃棄物が投棄されたり、テポドン騒ぎが起こったり、竹島を巡る排他的経済水域の線引き問題が生じる。日本海の地政学的特異性を活かした国策、とくに海洋権益を守る外交政策の樹立は高度の政治判断が求められる重要課題である。
③ なぜ富山湾に多様な生物がいるのか
(答)対馬暖流系の水が日本海固有水の上に乗った二層構造になってい
ること、河川水や地下水の流入があることなど。
④ 海流があるのに、なぜ水温は均一にならないのか
(答)海流は水温を均一化するのではなく、水温の違いが海流を生ずる
と考える方よい。
⑤ 硫酸ナトリウムも塩なのか
(答)強酸の硫酸と強塩基の水酸化ナトリウムからつくられる塩であ
る。
⑥ 日本海固有水の水温、塩分、溶存酸素量が定常な理由はなにか
(答)基本的に海水は鉛直方向に安定な成層をしているから。
参考文献
(1) 玉木賢策著「地球科学と国連海洋法条約大陸棚問題」
JGL,Vol.4, No.1, 2008
(2) Sverdrup,H.U., Johnson,M.W. and Fleming,R.H.
The Ocean. Prentice-Hall,1954
(3) 住明正、松井孝典、鹿園直建、小池俊雄ほか著「地球環境論」
岩波書店、1996
(4) Wallace,J.M. and Hobbs, P.V. Atomospheric Science.
2nd ed. Elseiver, 2006.
(5) 渡邊誠一郎、檜山哲哉、安成哲三編「新しい地球学」
名古屋大学出版会、2008.
(6)UNFCCC/WMO/UNEP IPCC Fourth Assessment WG1 Report.
IPCC,2007.
(7)W.S. ブロッカー著/新妻信明訳「海洋化学入門」
東京大学出版会、1981.
(8)前掲書(6)
(9)前掲書(4)
(10)遠藤一桂著「カルサイト-アラゴナイト問題」
JGL,Vol.4, No.4,2008.
(11)片山一道著「海のモンゴロイド」吉川弘文館、2002.
(12)村田良平著「海洋をめぐる世界と日本」成山堂書店、2001